第94話『隊長の決断』

第94話『隊長の決断』


中庭を後にする。

初夏の風が、制服の裾を静かに揺らした。

推薦状を見つめる。

支部長。

リアルダ。

グラン閣下。

三人とも、答えは教えなかった。

だからこそ。

答えは、自分で伝えなければならない。

支部長室の前で足を止める。

深く息を吸い、扉を叩いた。

コン、コン。

「失礼します。」

「入りたまえ。」

穏やかな声が返る。

俺は部屋へ入り、敬礼した。

「レッドです。」

支部長は書類から顔を上げ、小さく頷く。

「考えはまとまったか。」

「……はい。」

俺は一歩前へ進み、推薦状を机の上へ置いた。

「支部長。」

「今回の昇級試験は、辞退させてください。」

静かな部屋に、自分の声だけが響いた。

支部長は推薦状へ目を落とす。

やがて、小さく頷いた。

「そうか。」

それだけだった。

怒ることも。

驚くこともない。

ただ、俺の言葉を受け止めてくれた。

しばらく沈黙が続く。

やがて支部長が口を開いた。

「レッド君。」

「はい。」

「君は。」

「よく考えて、この結論を出したのだな。」

「はい。」

短く答える。

支部長は静かに俺を見つめた。

その眼差しに、責める色はなかった。

「……では。」

「理由を聞こう。」

部屋は静まり返る。

俺はゆっくり息を吸った。

何から話そう。

士官学校での日々。

母さんのこと。

山陰へ来てからの三か月。

仲間と積み重ねてきた時間。

どれも、今の俺につながっている。

支部長は静かに待っていた。

急かすこともない。

答えを促すこともない。

ただ、俺の言葉を待っている。

「俺は……。」

その一言を口にすると、

支部長は小さく頷いた。

「慌てなくていい。」

「君の言葉で聞かせてくれ。」

俺はもう一度、小さく息を吸った。


第95話『支部長の答え』
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2026年07月20日