第95話『支部長の答え』

第95話『支部長の答え』


「……では。」

「理由を聞こう。」

部屋は静まり返っていた。

俺はゆっくり息を吸う。

「俺は……。」

言葉を探す。

「士官学校では、同期のみんなに助けられて。」

「ようやく卒業することができました。」

支部長は何も言わない。

静かに耳を傾けている。

「山陰へ来てからも。」

「部下のみんなに支えられて。」

「リアルダに助けられて。」

「カンタービレ軍曹や、現地音響団のみなさんにも力を貸していただきました。」

少し間を置く。

「俺一人で勝てた戦いなんて、一つもありません。」

拳を握る。

「だから。」

「今は昇級よりも。」

「隊長として、もっと経験を積みたいんです。」

「遊撃隊のみんなと。」

「もっと信頼される部隊を作りたい。」

「それが、俺の答えです。」

言葉が途切れる。

部屋には静かな時間だけが流れていた。

やがて支部長は、ゆっくりと頷く。

「そうか。」

短い一言だった。

責める響きはない。

支部長は推薦状へ手を置く。

「レッド君。」

「はい。」

「私は、君なら中級試験に挑む資格があると思った。」

「だから推薦した。」

一呼吸置く。

「だが。」

「推薦はした。」

「しかし、受験を命じた覚えはない。」

俺は顔を上げる。

支部長は穏やかな表情のまま続けた。

「決めるのは、君だ。」

「隊長として考え。」

「悩み。」

「そして、自分で答えを出した。」

「その結論なら。」

「私は尊重しよう。」

胸の奥に張り詰めていたものが、静かにほどけていく。

「ありがとうございます。」

支部長は推薦状を封筒へ戻した。

引き出しを開け、そっとしまう。

「この件は、これで終わりだ。」

「はい。」

俺は深く敬礼する。

「失礼します。」

「うむ。」

俺は踵を返し、支部長室を後にした。

扉が静かに閉まる。

部屋には再び静寂が戻る。

支部長は椅子にもたれ、小さく息をついた。

机の上には、戦歴ファイルが置かれている。

その表紙へ静かに手を添える。

しばらく見つめたあと、小さく呟いた。

「……グラン閣下と同じか。」

その表情は、少しだけ寂しそうで。

けれど、どこか誇らしげでもあった。

窓の外では、初夏の風が木々を揺らしている。

支部長は静かに戦歴ファイルを閉じると、再び机の書類へ目を落とした。

― 昇級試験編・完 ―


第96話『集結』
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2026年07月20日