第96話『集結』
第96話『集結』
七月下旬。
夏休みに入った広島の街は、子どもたちの笑顔であふれていた。
広島西部方面軍、第3軍団司令部。
「失礼します。」
情報武官が、慌ただしく司令室へ入ってきた。
「広島平和野外音楽堂公園で開催予定の『MANパンマンフェス』ですが……」
一拍。
「悪のみなさんの大規模な集結を確認しました。」
コン・ブリオは、書類から静かに顔を上げた。
「依り代は?」
「フェスへ参加している子どもたちです。」
「敵戦力は?」
「指揮官級を複数確認。副官級も各地から続々と合流しています。」
地図の上へ、赤い駒が置かれていく。
山地。
河川。
沿岸部。
島しょ部。
広島各地の勢力が、一か所へ集まり始めていた。
「一つの軍団ではありません。」
情報武官が続ける。
「それぞれが独自の勢力を率いたまま合流しています。」
「総数は?」
情報武官が報告書へ目を落とした。
「……五百体以上。」
司令室から、音が消えた。
コン・ブリオが静かに尋ねる。
「第1軍団は?」
「東部戦線へ出動中。」
「第2軍団。」
「同じく東部戦線で交戦中です。」
つまり。
今、広島市内を守れる正規軍は――
「第3軍団のみです。」
「こちらの兵力は?」
「四百。」
百の差。
誰も口を開かなかった。
やがて。
コン・ブリオが小さく笑った。
「ふふっ。」
情報武官が顔を上げる。
「敵は多いですね。」
コン・ブリオは地図を見つめたまま続けた。
「ですが、一枚岩ではありません。」
赤い駒が散らばる地図。
その反対側。
防衛隊を示す駒は、一つにまとまっている。
「こちらは違う。」
コン・ブリオは微笑んだ。
「四百人で、一つの音です。」
張りつめていた司令室の空気が、ほんの少しだけ緩んだ。
「……承知しました。」
情報武官が敬礼する。
「失礼いたします。」
◇
一人になったコン・ブリオは、机の引き出しを開けた。
中には、一枚の色紙。
丸みを帯びた、温かい字。
最後へ行くにつれ、少しずつ文字が小さくなっている。
隅には、一緒に写った写真が少し曲がったまま貼られていた。
『コン・ブリオ君へ♡
また一緒に演奏しましょうね♪
スカーレット』
コン・ブリオは、しばらくそれを見つめた。
「ふふっ。」
そっと指先で、写真の端に触れる。
(女神様。)
(どうか。)
(この子どもたちを、お守りください。)
色紙を引き出しへ戻した。
そして。
軍帽を手に取る。
「作戦会議を始めよう。」
司令室の空気が、一瞬で変わった。
第3軍団が動き始める。
広島の街ではまだ。
子どもたちの笑い声が響いていた。
第97話『招集』
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