第97話『招集』
第97話『招集』
その頃。
俺たちは、いつもの朝を過ごしていた。
「ロングトーン!」
『ブォォォォ────』
真夏の青空へ、六本のトランペットが響く。
緑の山々が、少し遅れて音を返した。
「よし。」
「休憩!」
「了解っス!」
隊員たちが一斉に楽器を下ろす。
ブリランテが、真っ先に駆け寄ってきた。
「隊長様!」
「今日のお昼、そうめんですよー!」
満面の笑み。
「しかも、差し入れのスイカもあるそうですよ!」
「おっ。」
「今日は豪華だな。」
少し離れたところで、ペザンテが呟く。
「……楽しみだ。」
訓練場に笑いが広がった。
その時。
一台の白い公用車が、ゆっくりと入ってきた。
見慣れないナンバー。
広島。
「……広島?」
俺が首をかしげる。
「レッド隊長。」
カンタービレ軍曹が歩いてきた。
「お客様ですわ。」
「応接室へ。」
◇
応接室へ入ると、三人の士官が立ち上がった。
情報武官が一人。
初級トランペット使いが二人。
三人同時に敬礼する。
「広島西部方面軍第3軍団より参りました。」
情報武官が封筒を差し出した。
「レッド隊長。」
「コン・ブリオ軍団長より、お預かりしております。」
「コン・ブリオから?」
封を切る。
中に入っていたのは、命令書だった。
『レッド隊長、ドルチェ隊員、リアルダ情報士を、広島西部方面軍第3軍団へ招集する。』
思わず笑った。
「……あいつらしいな。」
情報武官も、わずかに表情を緩める。
「軍団長が、ぜひ皆様に来ていただきたいと。」
その横で。
カンタービレ軍曹が三人を見つめていた。
「レッド隊長とドルチェ隊員を、同時に。」
一拍。
「広島は、よほど切羽詰まっておりますのね。」
情報武官が頷く。
「はい。」
「一刻を争う状況です。」
「承知いたしました。」
俺は命令書を畳んだ。
「出頭します。」
すると。
二人のトランペット使いが一歩前へ出た。
「ご不在の間、我々二名が第1トランペット遊撃隊へ編入されます。」
「レッド隊長、ドルチェ隊員の任務を引き継ぎます。」
俺は右手を差し出した。
「留守を頼む。」
「はい!」
固い握手を交わす。
カンタービレ軍曹も前へ出た。
「隊員たちは、わたくしが責任を持って支えますわ。」
俺は頷く。
「頼んだ。」
「お任せください。」
情報武官が時計を見る。
「出発は三十分後です。」
「広島までは、私が運転いたします。」
リアルダがすぐに立ち上がった。
「レッド様。」
「遠征装備を準備します。」
「ドルチェ隊員にも連絡してきます。」
「頼む。」
「はい。」
敬礼。
そのまま、小走りで部屋を出ていった。
◇
三十分後。
荷物を積み終え。
俺とドルチェ、リアルダは公用車へ乗り込んだ。
車が、ゆっくりと益田駐屯地を離れていく。
窓の外へ。
さっきまでいた訓練場が遠ざかっていく。
俺は呟いた。
「……そうめんとスイカ。」
助手席のリアルダが振り返る。
「おあずけです。」
そして。
保冷バッグから何かを取り出した。
「はい。冷凍パン♪」
「広島まで行くのにか。」
「生存戦略です♪」
ドルチェが、くすりと笑う。
◇
浜田自動車道。
公用車は、緑濃い中国山地を縫うように走っていた。
しばらくして。
ドルチェが真顔で口を開く。
「皆様。」
「一つだけ。」
「何だ?」
「広島では。」
少し間を置く。
「お好み焼きを『広島焼き』とは、絶対に口にしてはいけませんわ。」
「え?」
俺とリアルダの声が重なった。
ドルチェは静かに頷く。
「『お好み焼き』ですわ。」
「覚えておいてくださいませ。」
リアルダも真顔になる。
「重要事項ですね。」
「ええ。」
「かなり重要ですわ。」
俺は苦笑した。
「了解。」
窓の外。
真夏の山々が流れていく。
行き先は、広島。
そうめんも。
スイカも。
しばらく、おあずけらしい。
第98話『ホテル』
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