第18話『三秒』

第18話『三秒』


「レッド様。」

リアルダが。

俺の横へ走り込む。

「住宅の反響。」

「弾道計算に入ります。」

ズゥンッ!

左翼の防壁が揺れた。

「斜角、12.7。」

「鋭角、6.9。」

「有効ヘルツ、442.2ヘルツ。」

「主管、0.3ミリ抜いてください。」

主管を動かす。

大きく息を吸った。

ベルの周りへ。

橙色の小鳥が集まる。

「三。」

ズゥンッ!

「二。」

左翼の防壁が。

大きく歪む。

「もう限界ですわ!」

「耐えてくださいませ!」

カンタービレ軍曹の声。

「一。」

「今です!」

「レッド様!」

ティン――

ラミアの背中が跳ねた。

「……え?」

紫色の♪が。

一斉に砕ける。

一瞬遅れて。

ドゴォォォーン!!

住宅の窓が震えた。

ラミアが。

ゆっくり振り返る。

「何……?」

自分の手を見る。

指先が。

光の粒になっていく。

「そんな……。」

身体の輪郭が。

崩れていく。

「私が……。」

最後に。

小さく呟いた。

「……アラクネ様。」

光が消えた。

静寂。

◇

「本当にやったのか……。」

団長が。

立ち尽くしていた。

クラリネットの女性も。

消えた場所を見つめている。

「倒したんですね……。」

「隊長!」

サックスの青年が。

駆け寄ってきた。

「さすがは、本部の音術師様!」

「無我夢中だったので……。」

力が抜けた。

その場に。

へたり込む。

「隊長様、大丈夫ですか?」

ブリランテが。

手を差し出した。

「……ありがとう。」

その手を掴む。

グラヴィオーソが。

小さく息を吐いた。

「……奇跡ね。」

ドルチェも。

力が抜けたように笑う。

「神様のご加護ですわ。」

カンタービレ軍曹が。

ゆっくり辺りを見回した。

「皆。」

「生きてますわね。」

「……はい。」

誰かが答えた。

風が。

匹見の住宅街を抜けていった。

◇

益田駐屯地。

「皆さん。」

カンタービレ軍曹が。

大きな包みを見せた。

「団長さんから差し入れがあります。」

中には。

イノシシ肉。

ブリランテの目が輝く。

「焼肉ですよー!」

ペザンテも。

小さく頷いた。

「……楽しみだ。」

◇

その夜。

駐屯地食堂。

ジュウウウウ――。

鉄板の上で。

イノシシ肉が焼けていた。

「おいしいですよー!」

ブリランテが。

次の肉を置く。

「まだ口の中に入っていますわよ。」

「焼いてるだけですよー!」

カンタービレ軍曹が。

ため息をつく。

「今回、見せ場が無かったっスー。」

スタッカートが頭をかく。

「バカ!俺たち。」

「隊長とリアルダさんを守っただろ。」

「みなさんのおかげです♪」

アクセントのつっこみに、リアルダが応じる。

レガートは穏やかに眺めている。

「美味しい……。」

ペザンテは黙々と食べている。

ソステヌートが。

肉を裏返した。

「でも。」

「三秒作るだけで。」

「あそこまで苦戦するとは……。」

グラヴィオーソが。

箸を伸ばす。

「最後まで。」

「油断できなかった……。」

ドルチェが頷く。

「防壁……。」

「よくもちこたえましたわ。」

エネルジコが。

焼けた肉を皿へ取る。

「力量の差がありすぎたな。」

ブリランテが。

急に身を乗り出す。

「隊長様、やっぱりすごいですよー!」

「すごいですよー!」

俺は苦笑いした。

「凄くない。」

「みんなの日頃の修練が身を結んで。」

「俺は、俺の仕事をしたまでだ。」

ソステヌートが。

メガネに手をかける。

「隊長のおっしゃる通りです。」

「強敵にはチームで。」

「教範通りです。」

カンタービレ軍曹が。

にっこり笑った。

「では。」

「訓練をもう少し厳しくしましょうか。」

「!? ええーっ!」

ブリランテが叫ぶ。

「もう、十分すぎるほどキツいですよー!」

ガハハハ。

みんなの笑いが漏れる。

駐屯地での初めての食事は。

騒がしいものだった。

でも。

俺はその騒がしさに。

心地よさを感じていた。

――新たな門出編・終


第19話『命を預ける一本』
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2026年07月04日