第110話『殿』
第110話『殿』
悪のみなさん連合。
左翼。
第2軍団。
土煙の中。
山ンバが。
ゆっくり立ち上がった。
衣装は破れ。
杖にも。
土がついている。
さっきの一撃。
防御弾幕を抜けて。
本隊へ。
直接。
叩き込まれた。
「山ンバ様!」
老婆妖が。
駆け寄ってくる。
「大丈夫じゃ。」
山ンバは。
額の土を払った。
「それより。」
敵陣を見る。
「どこから撃ってきた。」
「分かりましたで。」
老婆妖が。
指をさす。
防衛隊右翼。
第4トランペット遊撃隊。
「あそこです。」
「……。」
山ンバの目が。
細くなった。
「アレは。」
杖を握る。
「危険じゃ。」
そして。
振り返った。
「全軍!」
声を張る。
「あの火点を潰せ!」
山童たちが。
一斉に顔を上げる。
「持っとる音響弾。」
一拍。
「全部じゃ!」
「ハハッ!」
命令が。
左翼全体へ走った。
◇
防衛隊右翼。
ドルチェが。
敵左翼を眺めていた。
「……。」
ふっと。
微笑む。
「ウフフっ。」
「そろそろ。」
「来ますわね。」
オオタケも。
敵陣を見る。
「ドルチェ殿。」
「お願いします。」
その後ろ。
隊員たちまで。
一斉に敬礼した。
「よろしくお願いします!」
「頼みます!」
ドルチェが。
少し困った顔になる。
「まあ。」
「そんなに畏まらなくても。」
リアルダが。
俺の袖を引いた。
「レッド様。」
「ん?」
声を潜める。
「ドルチェって。」
俺は。
正面を見たまま。
答えた。
「歯を食いしばれ。」
「……え?」
次の瞬間。
◇
ドゴォォォォン!!
「きゃっ!!」
身体が。
後ろへ持っていかれる。
さらに。
ドゴォォォン!!
ドゴォォォン!!
ドゴォォォン!!
敵左翼から。
不協和音の音響弾が。
次々と飛んでくる。
耳が痛い。
地面が揺れる。
空気そのものに。
殴られているみたいだった。
「キャぁぁぁー!!」
リアルダが。
頭を抱える。
でも。
俺は。
目の前を見ていた。
薄い。
音の膜。
一枚。
また一枚。
柔らかく。
重なっている。
ドルチェの。
防御弾幕。
ドゴォォォン!!
最後の一発が。
ぶつかった。
そして。
音が止まる。
◇
「……。」
リアルダが。
恐る恐る顔を上げた。
「あれ……。」
自分の腕を見る。
身体を見る。
「生きてる……?」
「ウフフっ。」
ドルチェが。
振り返った。
「リアルダちゃん。」
「大袈裟ですわね。」
「大袈裟じゃありません!」
「地面、揺れてましたよ!」
「そうでした?」
「そうでした!」
ドルチェは。
何事もなかったように。
トランペットを構え直した。
オオタケが。
深く一礼する。
「ありがとうございました。」
そして。
顔を上げる。
さっきまでの笑顔はない。
「後は。」
「我々の仕事です。」
一歩前へ。
「右翼トランペット遊撃隊!」
「構え!」
一斉に。
ベルが上がった。
◇
悪のみなさん連合左翼。
「山ンバ様ー!」
山犬の妖が。
走ってくる。
「今度は何じゃ!」
「我々の攻撃が!」
息を切らす。
「全部!」
「防がれました!」
「……。」
山ンバが。
固まった。
「全部?」
「全部です!」
「馬鹿言うな。」
「本当です!」
「全弾じゃぞ?」
「全弾です!」
山ンバが。
防衛隊右翼を見る。
そこには。
まだ。
整った隊列がある。
「……。」
今度は。
岩石鬼が駆けてきた。
「山ンバ様!」
「大変じゃ!」
「次から次へと何じゃ!」
「散兵です!」
「何?」
岩石鬼が。
後方を指す。
「こっちが攻撃に全振りした隙に!」
「防衛隊の散兵が!」
「我々の防壁を張っとった連中へ!」
「音響弾を撃ち込んどる!」
山童の顔色が変わった。
「じゃあ……。」
全員が。
同じ方向を見る。
防衛隊右翼。
第4遊撃隊だけではない。
その周囲。
トランペット遊撃隊のベルが。
ずらり。
こちらを向いている。
「……まずい。」
山ンバが呟いた。
◇
「放てぇぇぇーっ!!」
ドゴォォォォン!!
防衛隊右翼から。
音響弾が。
一斉に飛んだ。
ドゴォォォン!!
ドドドドドドン!!
「きゃーっ!!」
山ンバが。
地面へ転がる。
土煙。
悲鳴。
吹き飛ばされる兵。
「防壁!」
「防壁を張れ!」
「無理じゃ!」
「散兵が撃ってくる!」
「山ンバ様!」
「こちらへ!」
「うるさい!」
山ンバが。
土まみれで立ち上がった。
「なんで!」
杖を振る。
「防壁の連中まで!」
「攻撃させたんじゃ!」
岩石鬼が。
叫び返す。
「山ンバ様が!」
「全弾放出!」
「全力で!」
「言うたんでしょうが!」
「……。」
山ンバが。
口を閉じた。
「遊撃隊!」
木霊が叫ぶ。
「接近!」
「遊撃隊!」
「接近!」
「危険火力!」
「健在!」
「危険火力!」
「健在!」
「うるさい!」
山ンバが頭を抱える。
「壊れたラジオみたいに!」
「繰り返すな!」
「……。」
一瞬。
静かになる。
山ンバは。
大きく。
息を吐いた。
◇
「……嗚呼。」
「もう。」
杖を地面へ突く。
「この戦。」
「わしのせいじゃ。」
誰も言わない。
「分かっとる。」
老婆妖が。
崩れた戦列を見る。
「山ンバ様。」
「もう。」
「レギオンは保てませんな。」
「……。」
山ンバは。
目を閉じた。
一度。
深く息を吸う。
そして。
開く。
「他の山衆へ。」
静かな声。
「伝えよ。」
山童が。
山ンバを見る。
「撤退じゃ。」
「……。」
「必ず。」
山ンバが続けた。
「生きて帰れとな。」
山童が。
唇を噛む。
「はい。」
「それと。」
山ンバは。
杖を構えた。
「わしらは。」
一拍。
「殿じゃ。」
「……え?」
山童の目が。
丸くなる。
「ええーっ!?」
「我々が!?」
「殿ですかー!?」
山ンバが。
腕を組む。
「部下の責任は。」
「上司の責任。」
山童が。
真剣に頷く。
「はい!」
「上司の責任は。」
一拍。
「部下の責任じゃ。」
「言い方ー!!」
山童の叫びに。
周囲から。
笑いが漏れた。
◇
山犬の妖が。
山童の肩を叩く。
「嫌なら。」
「先に帰ってもええんだゾ。」
木霊も。
ぴょこぴょこと跳ねる。
「帰れ!」
「帰れ!」
「帰るかー!」
山童が。
杖を構えた。
岩石鬼が笑う。
「喧嘩は。」
「生還してからにするだ。」
老婆妖も。
静かに頷く。
「我々は。」
「我々にできることを。」
「するだけじゃ。」
山ンバは。
残った部下たちを見る。
山童。
山犬の妖。
木霊。
岩石鬼。
老婆妖。
誰も。
逃げようとはしていない。
「……。」
山ンバは。
ほんの少し。
笑った。
「すまんな。」
そして。
防衛隊右翼へ向き直る。
杖を構える。
「行くぞ!」
「他の山衆が。」
「退くまで!」
一歩。
前へ出る。
「ここを。」
「通すな!」
『おおおおおおーっ!!』
◇
悪のみなさん連合左翼。
第2軍団は。
撤退を始めた。
山へ。
故郷へ。
帰るために。
その最後尾。
山ンバ率いる直属部隊だけが。
防衛隊右翼の前に。
残った。
第111話『逃げ場のない優勢』
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