第110話『殿』

第110話『殿』


悪のみなさん連合。

左翼。

第2軍団。

土煙の中。

山ンバが。

ゆっくり立ち上がった。

衣装は破れ。

杖にも。

土がついている。

さっきの一撃。

防御弾幕を抜けて。

本隊へ。

直接。

叩き込まれた。

「山ンバ様!」

老婆妖が。

駆け寄ってくる。

「大丈夫じゃ。」

山ンバは。

額の土を払った。

「それより。」

敵陣を見る。

「どこから撃ってきた。」

「分かりましたで。」

老婆妖が。

指をさす。

防衛隊右翼。

第4トランペット遊撃隊。

「あそこです。」

「……。」

山ンバの目が。

細くなった。

「アレは。」

杖を握る。

「危険じゃ。」

そして。

振り返った。

「全軍!」

声を張る。

「あの火点を潰せ!」

山童たちが。

一斉に顔を上げる。

「持っとる音響弾。」

一拍。

「全部じゃ!」

「ハハッ!」

命令が。

左翼全体へ走った。



防衛隊右翼。

ドルチェが。

敵左翼を眺めていた。

「……。」

ふっと。

微笑む。

「ウフフっ。」

「そろそろ。」

「来ますわね。」

オオタケも。

敵陣を見る。

「ドルチェ殿。」

「お願いします。」

その後ろ。

隊員たちまで。

一斉に敬礼した。

「よろしくお願いします!」

「頼みます!」

ドルチェが。

少し困った顔になる。

「まあ。」

「そんなに畏まらなくても。」

リアルダが。

俺の袖を引いた。

「レッド様。」

「ん?」

声を潜める。

「ドルチェって。」

俺は。

正面を見たまま。

答えた。

「歯を食いしばれ。」

「……え?」

次の瞬間。



ドゴォォォォン!!

「きゃっ!!」

身体が。

後ろへ持っていかれる。

さらに。

ドゴォォォン!!

ドゴォォォン!!

ドゴォォォン!!

敵左翼から。

不協和音の音響弾が。

次々と飛んでくる。

耳が痛い。

地面が揺れる。

空気そのものに。

殴られているみたいだった。

「キャぁぁぁー!!」

リアルダが。

頭を抱える。

でも。

俺は。

目の前を見ていた。

薄い。

音の膜。

一枚。

また一枚。

柔らかく。

重なっている。

ドルチェの。

防御弾幕。

ドゴォォォン!!

最後の一発が。

ぶつかった。

そして。

音が止まる。



「……。」

リアルダが。

恐る恐る顔を上げた。

「あれ……。」

自分の腕を見る。

身体を見る。

「生きてる……?」

「ウフフっ。」

ドルチェが。

振り返った。

「リアルダちゃん。」

「大袈裟ですわね。」

「大袈裟じゃありません!」

「地面、揺れてましたよ!」

「そうでした?」

「そうでした!」

ドルチェは。

何事もなかったように。

トランペットを構え直した。

オオタケが。

深く一礼する。

「ありがとうございました。」

そして。

顔を上げる。

さっきまでの笑顔はない。

「後は。」

「我々の仕事です。」

一歩前へ。

「右翼トランペット遊撃隊!」

「構え!」

一斉に。

ベルが上がった。



悪のみなさん連合左翼。

「山ンバ様ー!」

山犬の妖が。

走ってくる。

「今度は何じゃ!」

「我々の攻撃が!」

息を切らす。

「全部!」

「防がれました!」

「……。」

山ンバが。

固まった。

「全部?」

「全部です!」

「馬鹿言うな。」

「本当です!」

「全弾じゃぞ?」

「全弾です!」

山ンバが。

防衛隊右翼を見る。

そこには。

まだ。

整った隊列がある。

「……。」

今度は。

岩石鬼が駆けてきた。

「山ンバ様!」

「大変じゃ!」

「次から次へと何じゃ!」

「散兵です!」

「何?」

岩石鬼が。

後方を指す。

「こっちが攻撃に全振りした隙に!」

「防衛隊の散兵が!」

「我々の防壁を張っとった連中へ!」

「音響弾を撃ち込んどる!」

山童の顔色が変わった。

「じゃあ……。」

全員が。

同じ方向を見る。

防衛隊右翼。

第4遊撃隊だけではない。

その周囲。

トランペット遊撃隊のベルが。

ずらり。

こちらを向いている。

「……まずい。」

山ンバが呟いた。



「放てぇぇぇーっ!!」

ドゴォォォォン!!

防衛隊右翼から。

音響弾が。

一斉に飛んだ。

ドゴォォォン!!

ドドドドドドン!!

「きゃーっ!!」

山ンバが。

地面へ転がる。

土煙。

悲鳴。

吹き飛ばされる兵。

「防壁!」

「防壁を張れ!」

「無理じゃ!」

「散兵が撃ってくる!」

「山ンバ様!」

「こちらへ!」

「うるさい!」

山ンバが。

土まみれで立ち上がった。

「なんで!」

杖を振る。

「防壁の連中まで!」

「攻撃させたんじゃ!」

岩石鬼が。

叫び返す。

「山ンバ様が!」

「全弾放出!」

「全力で!」

「言うたんでしょうが!」

「……。」

山ンバが。

口を閉じた。

「遊撃隊!」

木霊が叫ぶ。

「接近!」

「遊撃隊!」

「接近!」

「危険火力!」

「健在!」

「危険火力!」

「健在!」

「うるさい!」

山ンバが頭を抱える。

「壊れたラジオみたいに!」

「繰り返すな!」

「……。」

一瞬。

静かになる。

山ンバは。

大きく。

息を吐いた。



「……嗚呼。」

「もう。」

杖を地面へ突く。

「この戦。」

「わしのせいじゃ。」

誰も言わない。

「分かっとる。」

老婆妖が。

崩れた戦列を見る。

「山ンバ様。」

「もう。」

「レギオンは保てませんな。」

「……。」

山ンバは。

目を閉じた。

一度。

深く息を吸う。

そして。

開く。

「他の山衆へ。」

静かな声。

「伝えよ。」

山童が。

山ンバを見る。

「撤退じゃ。」

「……。」

「必ず。」

山ンバが続けた。

「生きて帰れとな。」

山童が。

唇を噛む。

「はい。」

「それと。」

山ンバは。

杖を構えた。

「わしらは。」

一拍。

「殿じゃ。」

「……え?」

山童の目が。

丸くなる。

「ええーっ!?」

「我々が!?」

「殿ですかー!?」

山ンバが。

腕を組む。

「部下の責任は。」

「上司の責任。」

山童が。

真剣に頷く。

「はい!」

「上司の責任は。」

一拍。

「部下の責任じゃ。」

「言い方ー!!」

山童の叫びに。

周囲から。

笑いが漏れた。



山犬の妖が。

山童の肩を叩く。

「嫌なら。」

「先に帰ってもええんだゾ。」

木霊も。

ぴょこぴょこと跳ねる。

「帰れ!」

「帰れ!」

「帰るかー!」

山童が。

杖を構えた。

岩石鬼が笑う。

「喧嘩は。」

「生還してからにするだ。」

老婆妖も。

静かに頷く。

「我々は。」

「我々にできることを。」

「するだけじゃ。」

山ンバは。

残った部下たちを見る。

山童。

山犬の妖。

木霊。

岩石鬼。

老婆妖。

誰も。

逃げようとはしていない。

「……。」

山ンバは。

ほんの少し。

笑った。

「すまんな。」

そして。

防衛隊右翼へ向き直る。

杖を構える。

「行くぞ!」

「他の山衆が。」

「退くまで!」

一歩。

前へ出る。

「ここを。」

「通すな!」

『おおおおおおーっ!!』



悪のみなさん連合左翼。

第2軍団は。

撤退を始めた。

山へ。

故郷へ。

帰るために。

その最後尾。

山ンバ率いる直属部隊だけが。

防衛隊右翼の前に。

残った。


第111話『逃げ場のない優勢』
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2026年08月18日