第21話『運命の再会』
第21話『運命の再会』
自動ドアが静かに開いた。
店内へ一歩足を踏み入れる。
木の香り。
磨き上げられた真鍮の輝き。
壁一面に並ぶトランペット、フルート、サクソフォン。
吹奏楽をやっている人間なら、一日中いても飽きない空間だった。
「すごい……。」
ブリランテが目を輝かせる。
「隊長様!」
「全部吹いてみたいです!」
「店員さんに怒られるぞ。」
「ですよね!」
リアルダも店内を見回している。
「レッド様。」
「楽器屋さんって、こんなに楽器が並んでるんですね。」
「俺も久しぶりだ。」
店員へ事情を説明すると、同じ型番の16C4が何本も並べられた。
「ごゆっくり試奏してください。」
「ありがとうございます。」
一本目。
『パァーーー』
「少し重い。」
二本目。
『パァーーー』
「こっちは軽い。」
三本目。
『パァァーーー』
「……悪くない。」
リアルダは不思議そうに見ている。
「レッド様。」
「本当に違うんですね。」
「ああ。」
「数字では説明できない。」
「吹いた瞬間に分かる。」
ブリランテも感心していた。
「同じ16C4なのに……。」
「全部違って聞こえます。」
「吹く人間には、もっと違う。」
その時だった。
店内へ一本のフルートが響いた。
――。
誰もが動きを止める。
透き通るような高音。
柔らかく、それでいて芯のある音色。
まるで空気そのものが歌っているようだった。
「……。」
最初は店内BGMかと思った。
それほど完成された演奏だった。
リアルダが小さく首を傾げる。
「違います。」
「生演奏です。」
三人は音のする方へ視線を向けた。
試奏室の前。
一人の青年が静かにフルートを奏でていた。
整えられた金髪。
すらりと伸びた長身。
白い士官制服。
肩章には、中級音術師の階級章。
女性が思わず振り返るほど整った顔立ちだった。
最後の一音が静かに消える。
店内は一瞬、静寂に包まれた。
そして。
「きゃあっ!」
「素敵……!」
「あの人、すごい!」
あちこちから黄色い歓声が上がる。
青年は穏やかに微笑み、一礼した。
その仕草さえ絵になる。
女性客が次々と集まってくる。
「どちらの部隊なんですか?」
「すごく綺麗な音でした!」
「お名前を教えてください!」
青年は終始、穏やかな笑みを崩さなかった。
「ありがとうございます。」
「光栄です。」
「ふふっ。」
多くは語らない。
それでも、その場にいる誰もが彼へ惹きつけられていた。
まるで貴族の御曹司のような気品だった。
ブリランテは両手を胸の前で組み、目を輝かせる。
「きゃーーっ!」
「リアルダさん!」
「イケメンです!」
「イケメンですね!」
リアルダまで少し興奮気味だった。
「中級音術師様でしょうか……。」
「すごく素敵です。」
すると。
青年がこちらへ向き直った。
ゆっくりと歩き始める。
一歩。
また一歩。
真っ直ぐこちらへ向かってくる。
ブリランテは頬を押さえた。
「きゃーーっ!」
「こっち来ます!」
「こっち来ますよ!」
リアルダまで背筋を伸ばす。
「レ、レッド様!」
「どうしましょう!」
「……。」
俺は苦笑した。
「いや。」
「あれは――」
青年は俺たちの前まで歩いてくる。
ブリランテは心臓を押さえていた。
(まさか。)
(ボクたちに話しかけるんですか!?)
周囲の女性客たちも羨ましそうにこちらを見ている。
青年は静かに立ち止まった。
そして。
俺の前へ右手を差し出した。
「久しぶりだね。」
「レッド。」
俺は目を見開く。
「……コン・ブリオ。」
士官学校時代。
常に首席だった男。
中級フルート使い。
卒業試験では混成五重奏で同じ隊を組み、教官と戦った同期。
そして。
母――スカーレットを誰よりも尊敬していた男だった。
コン・ブリオは何も言わず、俺の右手を強く握る。
そのまま。
潤んだ瞳で、じっと俺を見つめていた。
店内が静まり返る。
「あれ……?」
ブリランテが小さく呟く。
「知り合い……?」
リアルダも目を丸くする。
「レッド様のお知り合いだったんですか……。」
二人が驚く中。
コン・ブリオは手を握ったまま、静かに微笑んでいた。
第22話『君が放った、あの一音』
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