第21話『白い士官服』

第21話『白い士官服』


自動ドアが開く。
店内へ入る。

壁一面。

トランペット。
フルート。
サクソフォン。

磨き上げられた楽器が。
ずらりと並んでいる。

「……。」

ブリランテが。
急に大人しくなった。

「隊長様。」

「何だ。」

「全部。」
「高そうですよー……。」

「触るなよ。」

「触りません!」

リアルダも。
辺りを見回す。

「外も凄かったですけど。」
「中も凄いですね。」

「ああ。」
「品揃えも凄いな。」

◇

受付へ向かう。

店員が。
こちらへ一礼した。

「山陰支部様。」
「お待ちしておりました。」

「無理を言って。」
「すみません。」

「いえ。」

店員が。
俺のトランペットを見る。

「今お使いのカスタムから。」
「スタンダードへ。」
「ということでしたね。」

「ああ。」

「音響弾の威力より。」
「速射性。」
「柔軟性。」
「持久力を優先したい。」

店員が頷く。

「承知しました。」

「YAMAHA 16C4。」
「できるだけ多くご用意しております。」

テーブルの上には。
16C4が。
ずらりと並んでいた。

ブリランテが。
目を丸くする。

「こんなにあるんですね……。」

一本ずつ。
興味深そうに見ていく。

「この中から。」
「隊長様に合う一本を探すんですね。」

「ああ。」

リアルダも。
並んだマウスピースを見る。

「これを全部。」
「試すんですか?」

「そのつもりだ。」

「大変ですね……。」

「だから来た。」

ケースを開ける。
YAMAHAニューヨークモデルを取り出す。

一本目。

『パァーーー』

「……。」

二本目。

『パァーーー』

「こっちは軽い。」

三本目。

『パァァーーー』

「……悪くない。」

リアルダが。
首を傾げる。

「私には。」
「ほとんど同じに聞こえます。」

ブリランテも。
耳を澄ませている。

「違いは分かりますけど。」
「隊長様ほどは分からないですよー。」

「吹く側は。」
「もっと違う。」

「なるほど……。」

次の一本へ。
手を伸ばした。

その時。

――フルート。

店内の奥から。
一音。

俺の手が止まる。

柔らかい。
透き通った音。

それでいて。
芯がある。

まるで。
空気そのものが。
歌っているような音だった。

ブリランテも。
音の方を見る。

「綺麗……。」

リアルダが。
耳を澄ませる。

「試奏ですね。」

俺は。
黙って音の方を見た。

◇

店内の奥。

一人の青年が。
フルートを構えていた。

長身。
整えられた金髪。
白い士官制服。

肩には。
階級章。

最後の一音が。
静かに消える。

一瞬。
店内が静まり。

やがて。
小さな拍手が起こった。

「すごい……。」

「綺麗な音。」

近くにいた女性客たちも。
青年を振り返っている。

青年は。
穏やかに一礼した。

それだけで。
また小さな歓声が上がる。

ブリランテが。
小声で呟く。

「すごいイケメンですよー……。」

リアルダが。
階級章を見る。

「中級音術師様です。」

そして。
青年の顔を見る。

「お顔が。」
「整ってらっしゃいます……。」

青年が。
フルートを下ろす。

こちらを向いた。

「……。」

目が合う。

一瞬。
青年の動きが止まった。

そして。
こちらへ歩いてくる。

「え!?」

ブリランテの顔が。
一気に赤くなる。

「きゃーっ!」
「たっ、隊長様!」
「こっちに来られますよー!」

リアルダも。
目を丸くした。

顔を赤らめ。
慌てて俺を見る。

「レッド様。」
「どうしましょう……。」

「いや。」
「あれは――」

青年は。
真っ直ぐこちらへ来る。

ブリランテが。
妙に姿勢を正す。

リアルダも。
髪を軽く整える。

そして。

青年は。
俺の前で立ち止まった。

「え?」

ブリランテ。

「……え?」

リアルダ。

青年が。
右手を差し出す。

「久しぶりだね。」
「レッド。」

「……コン・ブリオ。」

その手を握る。

士官学校時代。
常に首席だった男。

中級フルート使い。

卒業試験では。
同じ隊で戦った親友。

コン・ブリオは。
俺の手を握ったまま。

少しだけ。
目を潤ませる。

「元気そうで。」
「安心したよ。」

「……まあな。」

後ろで。
ブリランテが呟く。

「隊長様の……?」

リアルダも。
まだ少し赤い顔のまま。

「お知り合い……?」

「ああ。」
「士官学校の同期だ。」

「ええっ!?」

二人の声が。
綺麗に重なった。

店内へ。
響いた。


第22話『君が放った、あの一音』
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2026年07月04日