第66話『女子会』
第66話『女子会』
益田駅前。
駅前通りにあるレストラン。
窓際の席では、三人の女性が楽しそうに食事をしていた。
「美味しいですね〜。」
ドルチェが嬉しそうに笑う。
リアルダも微笑みながら頷いた。
「はい。」
「久しぶりに、ゆっくり食事ができます。」
グラヴィオーソは紅茶を口へ運ぶ。
「たまには、こういう時間も悪くないわ。」
戦場では見せない。
穏やかな時間だった。
◇
「そういえば〜。」
ドルチェがフォークを置いた。
「運動会の会戦。」
「終わったあとなんですけど〜。」
リアルダを見る。
「レッド隊長の手。」
「ずっと握ってましたよね〜。」
リアルダの手が止まる。
「……。」
グラヴィオーソも思い出したように笑う。
「そうだったわね。」
「離そうとしなかった。」
ドルチェは悪戯っぽく身を乗り出した。
「もしかして〜。」
「レッド隊長のこと、好きなんですか〜?」
リアルダは少しだけ目を丸くした。
そして。
困ったように笑う。
「違います。」
静かな声だった。
「私は……。」
少しだけ窓の外を見る。
駅前を歩く人たち。
笑い声。
平和な夜。
「北方戦線では。」
その言葉に。
二人の表情も静かになる。
「朝まで一緒に話していた方が。」
「夕方には、帰ってこないことがあります。」
ドルチェも。
グラヴィオーソも。
何も言わない。
「運動会の会戦では。」
「皆様。」
「生きて帰ってきてくださいました。」
リアルダは少し照れながら笑う。
「本当に嬉しくて。」
「……つい。」
「手を握ってしまいました。」
静かな時間が流れる。
やがて。
ドルチェが優しく笑った。
「リアルダさんらしいですね〜。」
リアルダも笑う。
「音術師様は。」
「国家の財産ですから。」
その口癖は。
いつもと同じなのに。
今日は少しだけ優しく聞こえた。
◇
「ところで〜。」
ドルチェが空気を変えるように笑う。
「トランペット隊の男の人たちって。」
「浮いた話、全然ありませんよね〜。」
グラヴィオーソが苦笑した。
「確かに。」
「レッド隊長は隊長業で忙しいし。」
「ソステヌートは教範ばかり読んでる。」
「ペザンテは食べることしか考えてない。」
ドルチェは吹き出した。
「本当ですね〜。」
リアルダも小さく笑う。
「皆様。」
「任務に真面目ですから。」
「恋愛どころではないのでしょう。」
「もったいないわね。」
グラヴィオーソが肩をすくめる。
「悪い人たちじゃないのに。」
「そうですね〜。」
ドルチェが頷いた。
「特にレッド隊長は。」
「優しいですし〜。」
リアルダは静かに微笑む。
「はい。」
「とても。」
その笑顔に。
恋愛感情はなかった。
尊敬。
信頼。
そして。
無事に帰ってきてくれることへの願い。
それだけだった。
◇
食事を終え。
三人は店を出る。
夜風が心地よい。
「このまま帰るには。」
ドルチェが伸びをした。
「少し早いですね〜。」
「どこか寄る?」
グラヴィオーソが尋ねる。
ドルチェは思い出したように笑う。
「そうだ〜。」
「この近くに。」
「ミリタリー好きが集まる、隠れ家みたいなバーがあるって聞いたんです〜。」
「バー?」
リアルダが首を傾げる。
「ええ。」
グラヴィオーソが頷いた。
「私も聞いたことがある。」
「駅裏にある、小さなお店。」
「名前は……。」
少し考える。
そして。
「あった。」
「レギオン。」
リアルダはその名前を静かに復唱した。
「レギオン……。」
「少しだけ。」
ドルチェが笑う。
「寄ってみませんか〜。」
三人は。
駅裏へ続く細い路地を歩き始めた。
まだ知らない。
その小さなバーで。
思いもよらない"夜間訓練"の続きが待っていることを。
第67話『情報士乱入』
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