第113話『生還』
第113話『生還』
悪のみなさん連合。
後方本隊。
ついさっきまで。
勝勢に沸いていた。
今は。
違う。
伝令が。
次々と駆け込んでくる。
「大王様。」
ヒノエウマの使いが。
三鬼大王の前へ出た。
「河太郎と。」
「山ンバの軍が。」
「撤退を始めました。」
三鬼大王は。
わずかに目を細めた。
でも。
動揺は見せない。
「……そうか。」
一拍。
「あ奴らも。」
「よう頑張った。」
穏やかな声。
「責めてくれるな。」
「大王様!」
今度は。
絡新婦が声を上げる。
「防衛隊が。」
「我が軍を包み込むように。」
「展開しております!」
一つ目入道も続く。
「四方から。」
「おびただしい数の音響弾が!」
◇
三鬼大王は。
戦場を見渡した。
前。
瀬戸坊軍は。
防衛隊中央に止められている。
左右。
河太郎軍。
山ンバ軍。
どちらも撤退。
その空いた場所へ。
防衛隊が入り込んでいる。
後方では。
防衛隊散兵と。
トランペット遊撃隊が。
こちらの背後へ回ろうとしていた。
「……なるほどの。」
三鬼大王が。
静かに呟く。
「わしらが。」
「中央を押し込んどったんじゃない。」
目を細める。
「中央へ。」
一拍。
「誘い込まれとった。」
その時。
ドゴォォォォン!!
すぐ近くへ。
音響弾が落ちた。
土煙。
「大王様!」
鬼火坊主が。
三鬼大王の前へ出る。
「防御弾幕の隙を抜けて。」
「ここまで届いとります!」
「ご避難を!」
三鬼大王は。
首を横へ振った。
「わしより。」
戦場を見る。
「先に。」
「皆を逃がす。」
周囲が。
静まった。
「瀬戸坊の軍の。」
「退路を作れ。」
「全軍へ伝えよ。」
「ハハッ!」
◇
提灯化けが。
大きく手を上げる。
「退路の誘導は。」
「ワチキにおまかせありんす!」
土ころびも。
一歩前へ出た。
「依り代の童らを。」
「解放する手配をいたします。」
三鬼大王が。
振り返る。
「くれぐれも。」
一拍。
「丁重にな。」
「もちろんです。」
ヒノエウマの使いも。
静かに頷く。
「ありったけの。」
「お菓子と。」
「おもちゃを。」
「持たせてあげなさい。」
「ハハッ!」
土ころびが。
走っていく。
◇
三鬼大王は。
その背中を見送ったあと。
ヒノエウマの使いを見る。
「……さて。」
「お主も。」
「よう頑張ってくれた。」
「配下を連れて。」
「退却するのじゃ。」
「嫌です。」
「……なんと?」
三鬼大王が。
目を丸くした。
ヒノエウマの使いは。
戦場を見たまま。
動かない。
「私が。」
「皆から受けた願いは。」
少し間を置く。
「そんなに。」
「浅いものではありません。」
火馬も。
一歩前へ出る。
「今回は。」
「主の願いに。」
「皆さんを巻き込んだ責任があります。」
怨霊童が続く。
「瀬戸坊様の軍と。」
呪詛童が並ぶ。
「大王様の本隊が。」
二人。
声をそろえる。
「退却するまで。」
「我ら。」
「ヒノエウマ軍団に。」
「お任せください。」
影踏みが。
肩を回した。
「出番がなくて。」
「暇を持て余していたところです。」
返り提灯も。
胸を張る。
「我らの軍に。」
一拍。
「皆を。」
「送らせてください。」
◇
三鬼大王は。
何も言わなかった。
ヒノエウマの使い。
火馬。
怨霊童。
呪詛童。
返り提灯。
影踏み。
誰も。
退くつもりはないらしい。
「……まったく。」
三鬼大王が。
困ったように笑った。
そして。
深く頷く。
「任せたぞ。」
ヒノエウマの使いも。
静かに頷いた。
◇
こうして。
広島で。
かつてない規模で行われた。
大軍編成会戦。
レギオンは。
終わった。
◇
しばらくして。
公園の外へ出ると。
黒塗りのリムジンが。
待っていた。
「……。」
朝。
初めて見た時も。
思った。
やっぱり。
場違いだ。
「皆様。」
ミヤジマさんが。
深く一礼する。
「お迎えに上がりました。」
「……戦場帰りを。」
「これで迎えるのか。」
ドルチェが笑う。
「ウフフっ。」
「さあ。」
「参りましょう♪」
◇
車内。
さっきまでの。
轟音も。
怒号も。
もう聞こえない。
でも。
みんなの顔には。
まだ。
高揚が残っていた。
俺は。
座席へ身体を預ける。
「あいつら。」
「素直に返して。」
「良かったのか?」
コン・ブリオは。
窓の外を見たまま。
「ふふっ。」
それだけ。
リアルダが笑った。
「コン・ブリオ様らしい。」
「スマートな指揮でしたね。」
俺は。
車内を見回す。
広い座席。
豪華な内装。
静かすぎる乗り心地。
「ホテルへ戻るだけで。」
「この車は。」
「スマートじゃないけどな。」
ドルチェが。
口元へ手を添えた。
「ウフフっ。」
「みんな。」
「生きて帰れたから。」
一拍。
「スマートですわ。」
「……。」
俺は。
少しだけ笑った。
「それも。」
「そうか。」
◇
窓の外。
広島の街は。
何事もなかったように。
流れていく。
コン・ブリオも。
その景色を。
静かに眺めていた。
やがて。
「それと。」
「レッド。」
「ん?」
少しだけ。
嫌な予感。
「もう一つ。」
コン・ブリオが。
こちらを見る。
「お願いがあるんだけど。」
「……。」
やっぱり。
俺は。
ため息をついた。
「どうせ。」
「断らせてくれないんだろ。」
「ふふっ。」
答えない。
そのくせ。
少しだけ。
耳が赤い。
昔から。
こいつが。
こういう顔をする時は。
大抵。
ろくでもないことを頼んでくる。
俺は。
頭を掻いた。
そして。
いつもの言葉を。
親友へ投げる。
「なんとかなるさ。」
コン・ブリオが。
小さく笑った。
リムジンは。
静かに。
広島の街を走っていった。
第114話『乾杯』
https://www.c-able.ne.jp/~y-info/posts/blog808.html
ウルセンジャー小説ガイド
https://www.c-able.ne.jp/~y-info/contact1.html