第113話『生還』

第113話『生還』


悪のみなさん連合。

後方本隊。

ついさっきまで。

勝勢に沸いていた。

今は。

違う。

伝令が。

次々と駆け込んでくる。

「大王様。」

ヒノエウマの使いが。

三鬼大王の前へ出た。

「河太郎と。」

「山ンバの軍が。」

「撤退を始めました。」

三鬼大王は。

わずかに目を細めた。

でも。

動揺は見せない。

「……そうか。」

一拍。

「あ奴らも。」

「よう頑張った。」

穏やかな声。

「責めてくれるな。」

「大王様!」

今度は。

絡新婦が声を上げる。

「防衛隊が。」

「我が軍を包み込むように。」

「展開しております!」

一つ目入道も続く。

「四方から。」

「おびただしい数の音響弾が!」



三鬼大王は。

戦場を見渡した。

前。

瀬戸坊軍は。

防衛隊中央に止められている。

左右。

河太郎軍。

山ンバ軍。

どちらも撤退。

その空いた場所へ。

防衛隊が入り込んでいる。

後方では。

防衛隊散兵と。

トランペット遊撃隊が。

こちらの背後へ回ろうとしていた。

「……なるほどの。」

三鬼大王が。

静かに呟く。

「わしらが。」

「中央を押し込んどったんじゃない。」

目を細める。

「中央へ。」

一拍。

「誘い込まれとった。」

その時。

ドゴォォォォン!!

すぐ近くへ。

音響弾が落ちた。

土煙。

「大王様!」

鬼火坊主が。

三鬼大王の前へ出る。

「防御弾幕の隙を抜けて。」

「ここまで届いとります!」

「ご避難を!」

三鬼大王は。

首を横へ振った。

「わしより。」

戦場を見る。

「先に。」

「皆を逃がす。」

周囲が。

静まった。

「瀬戸坊の軍の。」

「退路を作れ。」

「全軍へ伝えよ。」

「ハハッ!」



提灯化けが。

大きく手を上げる。

「退路の誘導は。」

「ワチキにおまかせありんす!」

土ころびも。

一歩前へ出た。

「依り代の童らを。」

「解放する手配をいたします。」

三鬼大王が。

振り返る。

「くれぐれも。」

一拍。

「丁重にな。」

「もちろんです。」

ヒノエウマの使いも。

静かに頷く。

「ありったけの。」

「お菓子と。」

「おもちゃを。」

「持たせてあげなさい。」

「ハハッ!」

土ころびが。

走っていく。



三鬼大王は。

その背中を見送ったあと。

ヒノエウマの使いを見る。

「……さて。」

「お主も。」

「よう頑張ってくれた。」

「配下を連れて。」

「退却するのじゃ。」

「嫌です。」

「……なんと?」

三鬼大王が。

目を丸くした。

ヒノエウマの使いは。

戦場を見たまま。

動かない。

「私が。」

「皆から受けた願いは。」

少し間を置く。

「そんなに。」

「浅いものではありません。」

火馬も。

一歩前へ出る。

「今回は。」

「主の願いに。」

「皆さんを巻き込んだ責任があります。」

怨霊童が続く。

「瀬戸坊様の軍と。」

呪詛童が並ぶ。

「大王様の本隊が。」

二人。

声をそろえる。

「退却するまで。」

「我ら。」

「ヒノエウマ軍団に。」

「お任せください。」

影踏みが。

肩を回した。

「出番がなくて。」

「暇を持て余していたところです。」

返り提灯も。

胸を張る。

「我らの軍に。」

一拍。

「皆を。」

「送らせてください。」



三鬼大王は。

何も言わなかった。

ヒノエウマの使い。

火馬。

怨霊童。

呪詛童。

返り提灯。

影踏み。

誰も。

退くつもりはないらしい。

「……まったく。」

三鬼大王が。

困ったように笑った。

そして。

深く頷く。

「任せたぞ。」

ヒノエウマの使いも。

静かに頷いた。



こうして。

広島で。

かつてない規模で行われた。

大軍編成会戦。

レギオンは。

終わった。



しばらくして。

公園の外へ出ると。

黒塗りのリムジンが。

待っていた。

「……。」

朝。

初めて見た時も。

思った。

やっぱり。

場違いだ。

「皆様。」

ミヤジマさんが。

深く一礼する。

「お迎えに上がりました。」

「……戦場帰りを。」

「これで迎えるのか。」

ドルチェが笑う。

「ウフフっ。」

「さあ。」

「参りましょう♪」



車内。

さっきまでの。

轟音も。

怒号も。

もう聞こえない。

でも。

みんなの顔には。

まだ。

高揚が残っていた。

俺は。

座席へ身体を預ける。

「あいつら。」

「素直に返して。」

「良かったのか?」

コン・ブリオは。

窓の外を見たまま。

「ふふっ。」

それだけ。

リアルダが笑った。

「コン・ブリオ様らしい。」

「スマートな指揮でしたね。」

俺は。

車内を見回す。

広い座席。

豪華な内装。

静かすぎる乗り心地。

「ホテルへ戻るだけで。」

「この車は。」

「スマートじゃないけどな。」

ドルチェが。

口元へ手を添えた。

「ウフフっ。」

「みんな。」

「生きて帰れたから。」

一拍。

「スマートですわ。」

「……。」

俺は。

少しだけ笑った。

「それも。」

「そうか。」



窓の外。

広島の街は。

何事もなかったように。

流れていく。

コン・ブリオも。

その景色を。

静かに眺めていた。

やがて。

「それと。」

「レッド。」

「ん?」

少しだけ。

嫌な予感。

「もう一つ。」

コン・ブリオが。

こちらを見る。

「お願いがあるんだけど。」

「……。」

やっぱり。

俺は。

ため息をついた。

「どうせ。」

「断らせてくれないんだろ。」

「ふふっ。」

答えない。

そのくせ。

少しだけ。

耳が赤い。

昔から。

こいつが。

こういう顔をする時は。

大抵。

ろくでもないことを頼んでくる。

俺は。

頭を掻いた。

そして。

いつもの言葉を。

親友へ投げる。

「なんとかなるさ。」

コン・ブリオが。

小さく笑った。

リムジンは。

静かに。

広島の街を走っていった。


第114話『乾杯』
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2026年08月18日