第130話『2つのケース』

第130話『2つのケース』


益田駐屯地の食堂。

第一混成サックス遊撃隊長、ジョコーソが口を開いた。

「すまない」

「我々が駆けつけた時には……」

「クッ……」

悔しそうに拳を握りしめる。

ソステヌートが眼鏡に手をかけた。

「敵は、かなりの手練れでした」

「連携に無駄がなく――」

「戦い慣れていました」

グラヴィオーソも静かに続ける。

「隙が無かったわ」

「……」

カンタービレが、包帯を巻いた腕を押さえた。

「是非、ウルセンジャーさんにと……」

「幼稚園の慰問演奏に呼ばれたんです」

「子供達は?」

エタジマが答えた。

「全員無事です」

「そうか……」

少しだけ、息が抜けた。

「ただ、敵は……」

エタジマが言葉を探す。

「その、なんというか……」

隣にいたクマノが続けた。

「最初から、我々が狙いだったようです」

「……?」

その時。

ぐぅぅぅ――。

「……」

みんなの視線が、一斉にペザンテへ向いた。

「隊長」

腹を押さえる。

「腹減りました……」

「……よし」

立ち上がる。

「先に昼食をとろう」

◇

昼食をとりながら、話を続ける。

ペザンテは、黙々と飯をかき込んでいた。

「よく食うな」

「腹減ってますから」

「食べられるということは、元気な証拠だ」

「はい」

少しだけ。

笑いが起きた。

ほんの少しだけ。

エタジマが箸を置く。

「隊長」

「ん?」

「考えられないことなのですが……」

空気が変わった。

「六体の怪人達は――」

言葉が止まる。

「……」

クマノが引き取った。

「恐らく」

「全て、ランク持ちです」

「……六体全部?」

「はい」

箸を持つ手が止まる。

「本部の案件じゃないか……」

誰も否定しなかった。

カンタービレが俯く。

「せめて……」

「隊長に、ドルチェ、リアルダと」

「全員揃っていれば……」

エタジマが頭を下げた。

「我々がいながら……」

クマノも続く。

「面目ありません」

「……」

みんなの顔を見る。

包帯。

絆創膏。

疲れ切った顔。

「今日のところは、これで終わりだ」

「隊長?」

「しっかり療養してくれ」

カンタービレが立ち上がる。

「私は報告書の作成がありますので」

「軍曹」

「はい」

「休養も大事な任務だ」

「……」

カンタービレが俺を見る。

「昨日、俺に言っただろ」

少し間を置いて。

「……承知しましたわ」

◇

駐屯地から望む、緑深い山々。

トランペットを構える。

(エネルジコ)

(レガート)

息を吸う。

――――。

ロングトーン。

もう一度。

――――。

ただ。

音を伸ばす。

心の中に渦巻く、いろんなものを。

少しでも。

音の向こうへ押し流すように。

もう一度。

――――。

◇

訓練を終え、楽器庫へ戻る。

椅子に座る。

クロスで、トランペットを磨く。

静かな楽器庫。

キュッ。

キュッ。

金属を拭く音だけが、小さく響く。

ふと。

視界の端に。

トランペットケースが映った。

「……」

持ち主を待つように。

静かに並んでいた。

二つ。


第131話『二つの名代』
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2026年08月29日