第70話『渚への出発』
第70話『渚への出発』
五月下旬。
皐月の陽射しが、益田駐屯地をやわらかく照らしていた。
駐車場には三台の車。
隊員たちは、それぞれ黙々と荷物を積み込んでいる。
「隊長様、おはようございます!」
ブリランテが元気よく敬礼した。
「おはよう。」
敬礼を返す。
アクセントがクーラーボックスを抱え、スタッカートは浮き輪を片手に歩いてきた。
「隊長!」
「積み込み、終わりました!」
「ご苦労。」
その横で、ペザンテが無言のまま荷室を閉める。
ガタン。
左翼では、カンタービレ軍曹が装備を確認していた。
「救急用品。」
「確認済みです。」
「整備用品。」
「異常ありません。」
短いやり取りだけで十分だった。
「レッド様。」
リアルダが手帳を閉じる。
「出発できます。」
「ああ。」
今日は、沿岸方面軍との合同訓練。
海での戦いは、山とは勝手が違う。
その道を知る者から学ぶ。
それが今回の任務だった。
運転席へ向かう。
その時。
草むらが、小さく揺れた。
カサッ。
耳がぴくりと動く。
思わず笑う。
「……名代様。」
金色の耳が、草の間から飛び出した。
続いて、大きな尻尾。
「キャハハハハ!」
カプリッチョが勢いよく姿を現す。
「どこ行くコン!」
「浜田。」
「海コン?」
「ああ。」
少しだけ考える。
そして。
「行くコン。」
「待て。」
返事より早く、後部座席へ飛び乗った。
「決まりコン!」
ブリランテが目を丸くする。
「名代様もですか?」
「そうみたいだ。」
カンタービレ軍曹が小さくため息をつく。
「その楽観的なお考えは感心しませんわ。」
リアルダが静かにドアを閉めた。
「全員、乗車しました。」
エンジンが静かに目を覚ます。
車はゆっくりと駐屯地をあとにした。
窓の外では、新緑が風に揺れている。
山並みの向こうに、日本海が青く光っていた。
第71話『浜田駐屯地』
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