第23話『Cランク三体』

第23話『Cランク三体』


ガラスが。
砕け散った。

店内へ。
黒い靄が流れ込む。

「きゃああっ!」

悲鳴。

客たちが。
一斉に入口から離れる。

黒い靄の向こう。

三つの影が。
ゆっくりと姿を現した。

リアルダが。
端末を見る。

「敵性反応確認!」
「神気測定――」

一瞬。
表情が変わる。

「Cランク個体。」
「三体です!」

「皆さん!」
「店の奥へ!」
「避難してください!」

ブリランテが。
トランペットを構える。

「隊長様!」
「ボクも戦います!」

その時。

「待って。」

静かな声。

コン・ブリオだった。

ブリランテのベルへ。
そっと手を添える。

「ウォーミングアップもしていないだろう?」

「え……。」

「今の君では危ない。」

「でも!」

「避難誘導を。」

「それが今。」
「一番大切な任務だ。」

「……。」

ブリランテが。
唇を噛む。

「……はい!」

すぐに。
客たちの方へ走った。

「皆さん!」
「こちらですよー!」
「慌てないでください!」

リアルダは。
端末を操作する。

「店内構造。」
「反響率。」
「敵性波形を――」

「リアルダ君。」

コン・ブリオが呼ぶ。

「はい?」

「本部へ報告を。」

「分析は?」

「僕がやる。」

「……。」

一瞬。
リアルダが止まる。

「お願いできるね。」

「……了解しました。」

通信へ切り替える。

「山陰支部!」
「こちらリアルダ!」

「広島市内。」
「ヤマハ楽器店!」

「Cランク個体。」
「三体!」

「中級音術師コン・ブリオ様。」
「初級音術師レッド様が交戦します!」

その声を聞きながら。

俺は。
ニューヨークモデルを構える。

黒い靄が晴れる。

先頭の怪人が。
コン・ブリオを見た。

にやりと笑う。

「やっと隙を見せたな!」

隣の怪人が。
周囲を見回す。

「おい!」

「民間施設への攻撃。」
「厳島の大明神様には。」
「どう言い訳するんじゃ。」

先頭の怪人が。
鼻で笑う。

「第3軍団の軍団長を狙ったら。」
「たまたま。」
「楽器屋じゃった。」

「そう言やあええ。」

「お前……。」

三体目が。
壁に並ぶ楽器を見る。

「それに。」
「敵の兵器供給源も破壊できて。」
「一石二鳥じゃろうが。」

「……。」

俺は。
小さく息を吐いた。

「コン・ブリオ。」

「至近距離で。」
「ランク持ち三体は分が悪い。」

入口。
避難する客。

店内。
並べられた楽器。

そして。
三体の怪人。

「避難を確認したら撤退する。」
「それが教範だ。」

コン・ブリオは。
静かに微笑んだ。

「そうだね。」
「教範なら。」

「……。」

「悪いけど。」
「僕の指示に従ってくれ。」

コン・ブリオは。
怪人達へ。
涼しい視線を送る。

「久しぶりの再会に。」
「水を差さないでくれるかな。」

「……。」

その肩が。
ほんの僅かに。
震えていた。

怖くないわけじゃない。

それでも。
退かない。

「強がりは。」
「相変わらずだな。」

コン・ブリオは。
振り返らない。

右手だけを。
軽く上げた。

「レッド。」

「ロングトーン。」
「最低音。」
「店内に響かせて。」

「了解。」

大きく息を吸う。
ベルを上げる。

『ブォォォォォ────』

太く。
温かな低音。

淡い橙色の♪が。
ベルから溢れる。

一つ。
また一つ。

音に乗って。
店内へ広がっていく。

床。
壁。
天井。
並んだ楽器。

淡い橙色の♪が。
空間を満たしていく。

コン・ブリオが。
静かにフルートを構えた。

『ふぅーるる――』

柔らかな音。

新たな♪が。
俺の低音へ重なる。

押し退けるでもなく。
乱すでもなく。

広がっていた橙色の♪へ。

静かに。
寄り添っていく。

「……。」

三体の怪人が。
それぞれ構えた。

一体が。
口元を歪める。

「ほう。」

「二人で。」
「わしら三人を相手にする気か。」

コン・ブリオは。
フルートを構えたまま。
穏やかに笑った。

「三人もいるんだ。」
「ちょうどいいね。」

「……。」

俺は横目で見る。

「お前。」
「そういうこと言う奴だったか?」

「ふふっ。」

三体の怪人から。
黒く歪んだ音符が。
ゆっくりと浮かび始めた。

店内の空気が。
軋む。

俺たちの音と。
奴らの不協和音が。
ぶつかる。

戦いが。
始まった。


第24話『狙ったな』
https://www.c-able.ne.jp/~y-info/posts/blog88.html

ウルセンジャー小説ガイド
https://www.c-able.ne.jp/~y-info/contact1.html


2026年07月04日