第24話『狙ったな』
第24話『狙ったな』
店内へ、低音のロングトーンが響き渡る。
『ブォォォォォ────』
ニューヨークモデルから放たれた太く温かな音が、木の床と天井をゆっくり震わせていく。
コン・ブリオは静かに目を閉じた。
店内の残響。
天井の高さ。
壁材。
床材。
ガラス。
楽器。
すべてを耳で測っているようだった。
そして、小さく呟く。
「やっぱり。」
「よく響く。」
フルートを構える。
『ピィィィィ────』
高音がレッドのロングトーンへ重なる。
低音と高音。
二本の旋律が店内を包み込んでいく。
怪人が眉をひそめた。
「小細工か。」
戦闘員三体が突撃する。
コン・ブリオは一歩も動かない。
高音だけで戦闘員を翻弄する。
『ピィッ!』
『ピィィッ!』
戦闘員たちは音へ誘われるように足を止める。
しかし。
中央の怪人だけは動じない。
「その程度では。」
「我には届かぬ。」
コン・ブリオは静かに頷いた。
「レッド。」
「ん?」
「ハイB♭。」
「斜角三十五度。」
「仰角十五度。」
「撃って。」
「了解。」
俺はベルを上げる。
大きく息を吸う。
(ここだ。)
『…………プスゥ。』
「…………。」
空気だけが抜けた。
音にならない。
店内が静まり返る。
ブリランテは思わず叫ぶ。
「隊長様っ!?」
リアルダも目を見開く。
「レッド様!?」
怪人は肩を震わせる。
「……くっ。」
「はははははっ!」
「それが切り札か!」
戦闘員たちまで笑い始めた。
俺は顔から火が出そうだった。
「す、すまん!」
「久しぶりだったから……。」
その時だった。
コン・ブリオが静かに微笑む。
「レッド。」
「次。」
「チューニングB♭。」
「同じ角度。」
「……え?」
「そのまま吹いて。」
意味は分からない。
だが。
俺は同期を信じた。
ゆっくり息を吸う。
ベルを構える。
『ベェェェェェ──────』
店内全体が震えた。
木の床。
天井。
壁。
展示されている何十本もの楽器。
すべてが共鳴する。
いつもとはまるで違う。
太い。
柔らかい。
そして圧倒的な音圧。
怪人の表情が変わる。
「なっ……!」
「この音は!」
音響弾ではない。
ただのチューニングB♭。
それなのに。
店内の残響が何重にも重なり、一つの巨大な音の壁となって怪人へ襲い掛かった。
「ぐっ!」
怪人が初めて後退する。
戦闘員たちは耳を押さえ、その場へ崩れ落ちた。
リアルダは呆然と立ち尽くす。
「ただの……。」
「チューニング……?」
「こんなことが……。」
ブリランテの目はキラキラと輝いていた。
「すごい……。」
「隊長様……。」
俺自身が一番驚いていた。
「今の……。」
「何だったんだ?」
コン・ブリオはフルートを下ろし、小さく笑う。
「ハイB♭を吹こうとして。」
「口輪筋が最高の状態になった。」
「その直後だから。」
「一番響く音が出せた。」
俺は思わず顔を赤くする。
「……。」
「狙ったな。」
コン・ブリオは答えない。
ただ。
「ふふっ。」
と微笑むだけだった。
怪人はゆっくり顔を上げる。
初めてその目に警戒の色が宿る。
「面白い。」
「ならば。」
「本気で相手をしてやろう。」
店内の空気が一変した。
本当の戦いは、ここから始まる。
第25話『本当の意味』
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