第25話『あの時と同じ』

第25話『あの時と同じ』


三体の怪人が。
ゆっくりと体勢を戻す。

黒い不協和音が。
周囲へ広がった。

コン・ブリオが。
フルートを構える。

「レッド。」

「唇と楽器は。」
「あったまったね。」

「……おかげ様でな。」

俺は。
少しだけ顔を赤くした。

『ふぅーるる――』

柔らかな音が。
店内へ流れる。

「無駄口叩く余裕も。」
「なくしてやるぜ!」

「くらえ!」

三体の音響弾が。
一斉に放たれる。

だが。

一発も。
俺達には届かない。

「何で当たらんのか!」

怪人達が。
次々と不協和音を放つ。

その間に。

俺は。
ニューヨークモデルを構えた。

淡い橙色の小鳥が。
ベルの周囲を舞い始める。

次々と集まり。
ベルへ吸い込まれていく。

「おい。」
「何かまずい!」

「防御弾幕を張れー!」

歪んだ♪が。
三体の前へ集まり始める。

波打つ五線が。
幾重にも重なる。

コン・ブリオが。
静かに言った。

「もう遅い。」
「解析済みさ。」

右手を上げる。

「レッド。」

「斜角三十五度。」
「仰角十五度。」

「今だ!」

――ティン。

コン・ブリオの誘導で。

橙色の音響弾が。
怪人達の防御弾幕の隙間へ。
吸い込まれた。

「ゴフっ!」

「グワっ!」

「ガガっ!」

一瞬遅れ。

ドゴォォォォォン!!

爆音が。
店内を揺らした。

展示された楽器が。
一斉に震える。

避難誘導中の。
ブリランテが頭を抱えた。

「きゃーっ!」
「地震ですよー!」

リアルダが。
目を見開く。

「まさか……。」
「レッド様……。」

◇

煙が晴れる。

二体の怪人は。
すでに消えていた。

残った一体も。
その場へ崩れ落ちている。

それでも。
俺を見ていた。

「……その波長。」

「何だ?」

「まさか……。」

「何を言ってる。」

怪人が。
苦しそうに笑う。

「気付いて……。」
「おらんのか……。」

「……。」

「そうか。」
「だからこそ……。」

「恐ろしい。」

その姿も。
やがて消えた。

静寂。

◇

コン・ブリオが。
俺を見ていた。

「……何だ?」

「いや。」

コン・ブリオは。
小さく笑った。

「何でもないよ。」

「そうか。」

◇

店内は。
戦闘の余波で。
見るも無残な姿になっていた。

砕けたガラス。
倒れた棚。

陳列されていた楽器も。
無残な姿になっている。

「……。」

俺は。
頭をかいた。

「スミマセン。」
「めちゃくちゃにして……。」

店員は。
店内を見回しながら。
苦笑した。

「けが人はありませんでしたし。」
「保険にも入っておりますので。」

「大丈夫ですよ。」

「……本当にすみません。」

「それより。」

店員が。
俺のニューヨークモデルを見る。

「マウスピース。」
「お気に召していただけましたか?」

「……。」

手元を見る。

試奏の途中から。
ずっと挿したままだった。

YAMAHA 16C4。

コン・ブリオと再会し。

そのまま。
三体の怪人と戦った一本。

マウスピースへ。
手を添える。

「コレで……。」
「十分だと思います……。」

横から。
ブリランテが。
目を輝かせる。

「地震を起こすマウスピース!」

「凄いですよー!」
「凄いですよー!」

俺はブリランテを睨む。

「こんなにして。」
「凄くない!」

リアルダが。
壊れた店内を見回す。

一拍。

「確かに。」
「そうですね……。」

コン・ブリオが。
小さく笑った。

「ふふっ。」

◇

コインパーキング。

軍用車の前まで。
コン・ブリオが。
見送りに来ていた。

リアルダが。
申し訳なさそうに頭を下げる。

「コン・ブリオ様。」

「わざわざ。」
「お見送りに来られなくても。」

「レッドのおかげで。」
「僕達は助かったんだ。」

「俺は。」
「お前の指示に従っただけだ。」

コン・ブリオを見る。

「それより。」
「一人で行動はするな。」

「ああ。」
「肝に銘じておく。」

その横から。
ブリランテが。
元気よく手を振る。

「イケメン様!」
「またお会いするですよー!」

「おい!」
「名前が違う。」

笑いが漏れる。

コン・ブリオは。
リアルダとブリランテを見る。

「実は。」
「本当に心配してたんだ。」

一拍。

「リアルダ君。」
「ブリランテ君。」

「レッドのことを頼む。」

「お前は俺の親か。」

また。
笑いが漏れた。

コン・ブリオが。
静かに手を上げる。

「では。」

「ああ。」
「またな。」

軍用車へ乗り込む。

ディーゼルエンジンが。
低く唸った。

車は。
ゆっくりと。
コインパーキングを出ていく。

コン・ブリオは。
その姿を。
じっと見つめていた。

やがて。

右手を。
ぐっと握る。

(やっぱり。)

(あの時と同じだ。)

(スカーレット様と。)

(限りなく近い波長。)

(本人は。)

(まだ気付いていない。)

――コン・ブリオとの再会編・完――


第26話『運動会の会戦』第1部
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2026年07月04日