第25話『本当の意味』

第25話『本当の意味』


「面白い。」

怪人はゆっくり立ち上がった。

耳を押さえながらも、不敵な笑みは消えていない。

「ならば。」

「我も本気で応えよう。」

黒い神気が店内へ溢れ出す。

展示されていた楽器が一斉に震え始めた。

ガタガタガタ……。

「来る!」

俺はニューヨークモデルを構える。

コン・ブリオは一歩だけ前へ出た。

「レッド。」

「うん。」

「今度は僕へ合わせて。」

「了解。」

フルートが静かに歌い始める。

先ほどまでとは違う。

旋律ではない。

一本の細い線が、店内の空気をゆっくりと整えていく。

木の床。

壁。

天井。

展示されている何十本もの楽器。

そのすべてが共鳴し始めた。

俺は自然と息を吸う。

(……何だ。)

(吹きやすい。)

コン・ブリオは振り返らない。

ただ右手だけを軽く上げた。

それが合図だった。

俺はベルを怪人へ向ける。

『パァァァァァァ────ッ!!』

音響弾が一直線に突き抜ける。

コン・ブリオのフルートが、その音へ美しく重なる。

二つの音が一つになった瞬間。

轟音が店内を駆け抜けた。

「ぐあああぁぁぁっ!!」

怪人が吹き飛ぶ。

戦闘員三体もまとめて壁へ叩き付けられ、そのまま黒い霧となって消えていった。

静寂。

楽器店には、ロングトーンの余韻だけが残る。

「……終わった。」

俺は息を吐く。

リアルダが駆け寄ってくる。

「レッド様!」

「ご無事ですか!?」

「大丈夫。」

「隊長様!」

ブリランテも目を輝かせている。

「すごかったです!」

「二人とも!」

怪人はゆっくり身体を起こした。

もう消えかけている。

それでも。

その目だけは真っ直ぐ俺を見ていた。

「……貴様。」

「何だ?」

怪人は震える声で呟く。

「その波長……。」

「まさか……。」

俺は首を傾げる。

「何を言ってる?」

怪人は苦しそうに笑った。

「気付いて……。」

「おらぬのか……。」

「……?」

「そうか。」

「だからこそ……。」

「恐ろしい。」

その言葉を最後に。

怪人の身体は光となり、静かに天へ還っていった。

店内へ静寂が戻る。

「最後。」

ブリランテが首を傾げる。

「何を言ってたんでしょう?」

「さあ。」

俺は肩をすくめた。

「負け惜しみじゃないか?」

リアルダも頷く。

「きっとそうですね。」

「でも。」

「さすがはレッド様です!」

「コン・ブリオ様との連携、本当に見事でした!」

「いや。」

俺は首を横へ振る。

「全部、コン・ブリオのおかげだ。」

「俺は指示どおり吹いただけ。」

コン・ブリオは小さく笑った。

「そんなことはないよ。」

「レッド。」

「……?」

「君は昔から。」

少しだけ遠くを見る。

「変わらないね。」

「そうか?」

「うん。」

それ以上は何も言わなかった。

店員たちもようやく安堵の表情を浮かべる。

「ありがとうございました!」

「助かりました!」

店内には拍手が広がっていた。

その輪の中で。

コン・ブリオだけが、静かにレッドを見つめていた。

(やっぱり。)

(あの時と同じだ。)

(スカーレット様と、限りなく近い波長。)

(本人だけが、まだ気付いていない。)

心の中で、そっと呟く。

卒業試験の日。

教官との模擬戦で響いた、あの一音。

今日、再び確信した。

あれは偶然ではなかった。

だから僕は。

君の音を、一生忘れることはない。

初夏の広島。

楽器店に差し込む柔らかな陽射しの中で、二人の同期は静かに笑い合った。

その光景を見つめるリアルダも、ブリランテも。

まだ誰一人として。

レッドの音に秘められた、本当の意味を知らなかった。

― コン・ブリオとの再会編・完 ―


第26話『運動会の会戦』第1部
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2026年07月04日