第142話『川遊び』

第142話『川遊び』


「なぜ――」

ヒノエウマの使いが。

グランディオーソを見る。

「なぜ」

「我々を見逃すんです?」

「見逃す?」

グランディオーソが。

鼻を鳴らした。

「フンっ」

「山陰と広島のエースを」

「ここまで追い込んだんじゃ」

「十分な戦果じゃろう」

「……」

「勝つだけが」

「戦ではない」

巨大なチューバを担ぐ。

「生きて帰るまでが――」

「川遊びじゃ!」

◇

ヒノエウマの使いが。

振り返る。

怨霊童。

火馬。

呪詛童。

送り提灯。

影踏み。

五体を見渡した。

「貴方達は」

「よく戦いました」

一拍。

「帰りましょう」

しばしの沈黙。

「……はい」

ヒノエウマの衆が。

静かに退いていく。

使いが。

振り返った。

「……ありがとうございました」

「フンっ」

グランディオーソは。

それだけ答えた。

◇

夕方。

益田へ戻る道。

「ウルセンジャーだー!」

「ブリランテちゃーん!」

子供達が。

駆け寄ってくる。

「握手してー!」

「もちろんですよー!」

ブリランテが。

嬉しそうに手を差し出す。

「順番ですよー!」

「わーい!」

タケハラが。

俺の隣へ寄る。

「閣下……」

小声。

「噂以上に」

「出鱈目な人ね」

「生きてる世界が」

「俺達と違うからな」

ソステヌートが。

眼鏡を押し上げる。

「恨みは」

「恨みを買う」

「ヒノエウマの衆は――」

一拍。

「恨みの思念が」

「具現化した存在です」

「閣下は」

「そう判断されたのでしょう」

少し前を歩く。

グランディオーソ。

「フンっ」

振り返らない。

ただ。

耳が。

少し赤かった。

◇

夕方。

益田駐屯地。

食堂。

皆で食事をする前に。

タケハラが立った。

「改めまして」

姿勢を正す。

敬礼。

「広島西部方面軍第3軍団」

「第3トランペット遊撃隊長」

「タケハラです」

「本日付で――」

にこっ。

「皆さんのお仲間になります♪」

「え?」

タケハラが。

俺の方へ寄る。

「ねっ」

「レッド君♪」

「……近いです」

リアルダが。

すっと間に入る。

「隊長様は」

ブリランテも。

手を上げた。

「みんなのものですよー!」

「何の話だ?」

「……面倒なのが増えた」

グラヴィオーソが呟く。

「広島の隊長!?」

アクセントが。

目を丸くする。

「エリートっス!」

スタッカートが。

身を乗り出す。

カンタービレは。

小さく笑った。

「頼もしいわね」

「……お腹すいた」

ペザンテ。

「うふふっ」

ドルチェ。

ソステヌートも。

ほんの少し笑う。

「ピピ♪」

チャッピーが。

タケハラの周りを歩き回る。

「こらっ」

タケハラが。

腰に手を当てた。

「人が話してる時は」

「姿勢を正さんか!」

「ピッ!」

チャッピーが。

ぴしっと背筋を伸ばす。

「よろしい♪」

タケハラが。

ウインクした。

◇

夜。

倉庫。

一人。

トランペットを手入れする。

布で。

ゆっくりと。

ベルを拭く。

ふと。

棚を見る。

新しく増えた。

二つのケース。

「……」

俺は。

楽器を拭き続けた。


第143話『お見舞い』
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2026年08月29日