第115話『市街地対人訓練』

第115話『市街地対人訓練』


ホテルから。

歩いて数分。

コン・ブリオが選んだのは。

静かなバーだった。

照明は暗め。

店内には。

小さな音で音楽が流れている。

「ここなら。」

「落ち着いて話せるだろ?」

「そうだな。」

席へ着く。

俺の隣には。

タケハラ。

向かいには。

リアルダ。

その横。

ドルチェ。

コン・ブリオは。

俺の斜め前に座った。



注文を取りに来た店員へ。

俺は言う。

「CALPIS。」

「ロックで。」

一拍。

「濃いめ。」

タケハラが。

くすっと笑った。

「隊長。」

「可愛いの飲むんですね♪」

「酒が飲めないからな。」

「そうなんですかー。」

リアルダが。

小さく頷く。

「飲酒されないのは。」

「良いことです。」

「また。」

「国家の財産か?」

「当然です。」

真顔。

タケハラが。

少しだけ。

眉を上げた。



飲み物が届く。

タケハラが。

俺のグラスを見る。

「一口。」

「もらってもいいですか♪」

「自分のを頼めばいいだろ。」

「隊長のが。」

「いいんです♪」

「?」

その時。

「タケハラ様。」

リアルダが。

静かに口を挟んだ。

「はい?」

「ご自身の飲み物を。」

「お召し上がりください。」

「……。」

タケハラが。

リアルダを見る。

「リアルダさん。」

「さっきから。」

「ちょっと厳しくないですかー?」

「そうでしょうか。」

「写真の時も。」

「ホテルを出た時も。」

「今も。」

リアルダは。

表情を変えない。

「レッド様は。」

「山陰支部にとって。」

「大切な音術師様です。」

「節度ある交流を。」

「お願いしているだけです。」

「それ。」

タケハラが。

首を傾げる。

「職務ですか?」

「はい。」

「民事介入じゃないですかー?」

ドルチェが。

口元を押さえた。

「ウフフっ。」



タケハラが。

椅子へ座り直す。

「じゃあ。」

「聞きますけど。」

リアルダを見る。

「リアルダさんは。」

「好きな人とか。」

「いないんですかー?」

「……。」

リアルダが。

一瞬。

止まった。

そして。

鞄を開く。

「失礼ですね。」

「私だって。」

「ちゃんと。」

「勉強しています。」

「勉強?」

ドン。

テーブルへ。

一冊の本。

『市街地対人訓練用教材』

『初めてのデート』

「……。」

タケハラが。

固まった。

リアルダは。

得意げにページを開く。

「現在。」

「初めてのお食事。」

チェック。

「初めてのホテル。」

チェック。

「二項目。」

「履修済みです。」

「履修!?」

「はい。」

「市街地対人訓練ですから。」

「それ。」

「普通に恋愛本じゃないですかー?」

「違います。」

リアルダが。

表紙を指す。

「対人訓練と。」

「明記されています。」

「そこ信じるんですか!?」



リアルダが。

真顔で。

次のページをめくる。

「あっ。」

「『初めてのお風呂』は。」

「さすがに駄目ですね。」

「当たり前だ。」

さらに。

めくる。

「あっ。」

「『初めての添い寝』なら――」

「駄目だ。」

「まだ。」

「最後まで読んでません。」

「読まなくていい。」

タケハラが。

腹を抱えた。

「隊長。」

「大変ですねー!」

「俺に言うな。」



タケハラが。

ふと。

本の表紙を見る。

「あれ?」

「何だ?」

「あっ!」

勢いよく。

本を指さした。

「これ!」

「隊長が。」

「演説の時に渡された本だー!」

「言うな。」

リアルダの顔が。

固まる。

「……あれは。」

「事故です。」

「演説の教本と。」

「取り違えました。」

「でも。」

タケハラが笑う。

「防衛隊のみんな。」

「大笑いしてましたよねー。」

「……。」

リアルダの耳が。

少し赤い。

「ふふっ。」

コン・ブリオが。

静かに笑った。

「でも。」

「その本のおかげで。」

「レッドも。」

「防衛隊のみんなも。」

「緊張が解けたんだ。」

リアルダを見る。

「礼を言うね。」

「……。」

タケハラが。

数秒。

黙る。

「なんで。」

一拍。

「いい話みたいに。」

「終わるんですかー!」

笑い声が。

店内に響いた。



ようやく。

笑いが収まる。

リアルダは。

教材を鞄へ戻した。

タケハラも。

グラスへ手を伸ばす。

そこで。

リアルダが。

少しだけ姿勢を正した。

「タケハラ様。」

「はい?」

「大変。」

「失礼なことを申しますが。」

一拍。

「その……。」

言葉を選ぶ。

「少し。」

「がっつき過ぎでは。」

「ありませんか?」

「……。」

今度は。

タケハラが止まった。

ドルチェが。

穏やかに笑う。

「ウフフっ。」

「積極的なのも。」

「悪いことではありませんわ。」

「しかし。」

リアルダが。

言いかける。

でも。

続かなかった。



短い。

沈黙。

タケハラが。

グラスを置いた。

さっきまでの。

軽い笑顔が消える。

「……よく考えたら。」

一拍。

「大変。」

「失礼いたしました。」

「?」

「我が軍の同胞を。」

「救ってくださった皆さんに対して……。」

俺は。

首を振った。

「そこまで。」

「大袈裟に考えることはない。」

タケハラを見る。

「俺たちは。」

「俺たちの仕事を。」

「しただけだ。」

「……。」

タケハラが。

視線を落とした。

その時。

コン・ブリオが。

静かに口を開いた。

「実は。」

「彼女にとっては。」

「大袈裟なことだったんだよ。」

「!?」

タケハラが。

顔を上げる。

「軍団長!」

「やめてください!」

コン・ブリオは。

穏やかなまま。

続けた。

「彼女の第3遊撃隊は。」

一拍。

「決死隊だったからね……。」

「え?」

俺と。

リアルダの声が。

重なった。

「「え?」」

タケハラは。

俯いたまま。

何も言わない。

ドルチェだけが。

達観したように。

穏やかに。

微笑んでいた。


第116話『決死隊』
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2026年08月18日