第115話『市街地対人訓練』
第115話『市街地対人訓練』
ホテルから。
歩いて数分。
コン・ブリオが選んだのは。
静かなバーだった。
照明は暗め。
店内には。
小さな音で音楽が流れている。
「ここなら。」
「落ち着いて話せるだろ?」
「そうだな。」
席へ着く。
俺の隣には。
タケハラ。
向かいには。
リアルダ。
その横。
ドルチェ。
コン・ブリオは。
俺の斜め前に座った。
◇
注文を取りに来た店員へ。
俺は言う。
「CALPIS。」
「ロックで。」
一拍。
「濃いめ。」
タケハラが。
くすっと笑った。
「隊長。」
「可愛いの飲むんですね♪」
「酒が飲めないからな。」
「そうなんですかー。」
リアルダが。
小さく頷く。
「飲酒されないのは。」
「良いことです。」
「また。」
「国家の財産か?」
「当然です。」
真顔。
タケハラが。
少しだけ。
眉を上げた。
◇
飲み物が届く。
タケハラが。
俺のグラスを見る。
「一口。」
「もらってもいいですか♪」
「自分のを頼めばいいだろ。」
「隊長のが。」
「いいんです♪」
「?」
その時。
「タケハラ様。」
リアルダが。
静かに口を挟んだ。
「はい?」
「ご自身の飲み物を。」
「お召し上がりください。」
「……。」
タケハラが。
リアルダを見る。
「リアルダさん。」
「さっきから。」
「ちょっと厳しくないですかー?」
「そうでしょうか。」
「写真の時も。」
「ホテルを出た時も。」
「今も。」
リアルダは。
表情を変えない。
「レッド様は。」
「山陰支部にとって。」
「大切な音術師様です。」
「節度ある交流を。」
「お願いしているだけです。」
「それ。」
タケハラが。
首を傾げる。
「職務ですか?」
「はい。」
「民事介入じゃないですかー?」
ドルチェが。
口元を押さえた。
「ウフフっ。」
◇
タケハラが。
椅子へ座り直す。
「じゃあ。」
「聞きますけど。」
リアルダを見る。
「リアルダさんは。」
「好きな人とか。」
「いないんですかー?」
「……。」
リアルダが。
一瞬。
止まった。
そして。
鞄を開く。
「失礼ですね。」
「私だって。」
「ちゃんと。」
「勉強しています。」
「勉強?」
ドン。
テーブルへ。
一冊の本。
『市街地対人訓練用教材』
『初めてのデート』
「……。」
タケハラが。
固まった。
リアルダは。
得意げにページを開く。
「現在。」
「初めてのお食事。」
チェック。
「初めてのホテル。」
チェック。
「二項目。」
「履修済みです。」
「履修!?」
「はい。」
「市街地対人訓練ですから。」
「それ。」
「普通に恋愛本じゃないですかー?」
「違います。」
リアルダが。
表紙を指す。
「対人訓練と。」
「明記されています。」
「そこ信じるんですか!?」
◇
リアルダが。
真顔で。
次のページをめくる。
「あっ。」
「『初めてのお風呂』は。」
「さすがに駄目ですね。」
「当たり前だ。」
さらに。
めくる。
「あっ。」
「『初めての添い寝』なら――」
「駄目だ。」
「まだ。」
「最後まで読んでません。」
「読まなくていい。」
タケハラが。
腹を抱えた。
「隊長。」
「大変ですねー!」
「俺に言うな。」
◇
タケハラが。
ふと。
本の表紙を見る。
「あれ?」
「何だ?」
「あっ!」
勢いよく。
本を指さした。
「これ!」
「隊長が。」
「演説の時に渡された本だー!」
「言うな。」
リアルダの顔が。
固まる。
「……あれは。」
「事故です。」
「演説の教本と。」
「取り違えました。」
「でも。」
タケハラが笑う。
「防衛隊のみんな。」
「大笑いしてましたよねー。」
「……。」
リアルダの耳が。
少し赤い。
「ふふっ。」
コン・ブリオが。
静かに笑った。
「でも。」
「その本のおかげで。」
「レッドも。」
「防衛隊のみんなも。」
「緊張が解けたんだ。」
リアルダを見る。
「礼を言うね。」
「……。」
タケハラが。
数秒。
黙る。
「なんで。」
一拍。
「いい話みたいに。」
「終わるんですかー!」
笑い声が。
店内に響いた。
◇
ようやく。
笑いが収まる。
リアルダは。
教材を鞄へ戻した。
タケハラも。
グラスへ手を伸ばす。
そこで。
リアルダが。
少しだけ姿勢を正した。
「タケハラ様。」
「はい?」
「大変。」
「失礼なことを申しますが。」
一拍。
「その……。」
言葉を選ぶ。
「少し。」
「がっつき過ぎでは。」
「ありませんか?」
「……。」
今度は。
タケハラが止まった。
ドルチェが。
穏やかに笑う。
「ウフフっ。」
「積極的なのも。」
「悪いことではありませんわ。」
「しかし。」
リアルダが。
言いかける。
でも。
続かなかった。
◇
短い。
沈黙。
タケハラが。
グラスを置いた。
さっきまでの。
軽い笑顔が消える。
「……よく考えたら。」
一拍。
「大変。」
「失礼いたしました。」
「?」
「我が軍の同胞を。」
「救ってくださった皆さんに対して……。」
俺は。
首を振った。
「そこまで。」
「大袈裟に考えることはない。」
タケハラを見る。
「俺たちは。」
「俺たちの仕事を。」
「しただけだ。」
「……。」
タケハラが。
視線を落とした。
その時。
コン・ブリオが。
静かに口を開いた。
「実は。」
「彼女にとっては。」
「大袈裟なことだったんだよ。」
「!?」
タケハラが。
顔を上げる。
「軍団長!」
「やめてください!」
コン・ブリオは。
穏やかなまま。
続けた。
「彼女の第3遊撃隊は。」
一拍。
「決死隊だったからね……。」
「え?」
俺と。
リアルダの声が。
重なった。
「「え?」」
タケハラは。
俯いたまま。
何も言わない。
ドルチェだけが。
達観したように。
穏やかに。
微笑んでいた。
第116話『決死隊』
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