第116話『決死隊』

第116話『決死隊』


「彼女の第3遊撃隊は。」

コン・ブリオが。

静かに言った。

「決死隊だったからね……。」

沈黙。

さっきまでの。

笑い声が消えた。

俺は。

たまらず。

グラスへ手を伸ばす。

カラン。

氷の音だけが。

店内に響いた。

「あの、その……。」

タケハラが。

口を開く。

でも。

その先が続かない。

そんな彼女を。

かばうように。

ドルチェが口を開いた。

「タケハラさんだけでは。」

「ありませんわ。」

「わたくしたちの。」

「第4遊撃隊も。」

一拍。

「決死隊だったんですのよ。」

「え?」

「え?」

俺と。

リアルダの声が重なった。



コン・ブリオが。

俺を見る。

「レッド。」

「防御の固い本陣まで。」

「届く音響弾が飛んできたら。」

「どうする?」

リアルダが。

先に答えた。

「火点を見つけ。」

「全力で叩きます。」

「あ……。」

思い出した。

オオタケの言葉。

そして。

あの瞬間。

「山ンバの左翼から。」

「ありったけの音響弾が。」

「飛んできたな……。」

リアルダの顔が。

少し青ざめる。

「あの轟音と。」

「衝撃……。」

膝の上で。

指を握った。

「とても。」

「恐ろしかったです。」

一拍。

「本当に。」

「生き残ったのが。」

「不思議なくらいです。」

ドルチェが。

いつものように。

穏やかに微笑む。

「たまたま。」

「第4遊撃隊には。」

「隊長をはじめ。」

「音術師たくさんがいらっしゃいましたし。」

少しだけ。

自分の胸へ手を添える。

「わたくしも。」

「おりましたから。」



コン・ブリオが。

タケハラを見る。

「じゃあ。」

「タケハラ君の第3遊撃隊へ。」

「同じ集中砲火が来たら?」

「……。」

タケハラは。

グラスへ視線を落とした。

「我が隊では。」

一拍。

「防ぎきれなかったと。」

「思います……。」

誰も。

何も言わない。

「もし。」

俺は。

口を開いた。

「俺たちが。」

「広島へ来てなかったら……。」

そこで。

言葉が止まった。

その先は。

聞く必要がなかった。



「……戦争は。」

コン・ブリオの声が。

静かに落ちる。

「綺麗ごとだけじゃ。」

「済まないからね。」

いつもの。

柔らかな声。

なのに。

どこか。

悲しみが混じっていた。

リアルダが。

ゆっくり顔を上げる。

「それで……。」

「第4遊撃隊には。」

俺を見る。

「音術師様が。」

「多く配置されていたのですね。」

コン・ブリオは。

何も答えなかった。

ドルチェが。

小さく笑う。

「ウフフっ。」

「そのおかげで。」

「今。」

「こうして。」

「皆さんと。」

「ご一緒できておりますわね。」

重かった空気が。

ほんの少しだけ。

ほどけた。



「あの……。」

タケハラが。

リアルダを見る。

「リアルダさん。」

「はい。」

「すみませんでした。」

「私。」

少しだけ。

視線を落とす。

「ちょっと。」

「浮かれてました……。」

リアルダも。

姿勢を正した。

「こちらこそ。」

「申し訳ありませんでした。」

「事情も知らず。」

「失礼なことを。」

「いえ。」

「そんな……。」

短い。

沈黙。

タケハラが。

ゆっくり顔を上げる。

そして。

ニコッ。

「なら。」

一拍。

「公認ということですね♪」

「……。」

リアルダが。

固まる。

俺も。

一瞬。

言葉が出なかった。

強い。

この子。

強い。

さっきまで。

決死隊の話をしていたのに。

もう。

戻ってきた。

胆力が。

すごい。

「タケハラ様。」

リアルダの声が。

少し低くなる。

「はい♪」

「公認した覚えは。」

「ありません。」

「えー。」

「今。」

「和解したじゃないですかー。」

「和解と。」

「許可は。」

「別問題です。」

「厳しいー。」

また。

始まりそうだ。



「コホン。」

俺は。

わざとらしく。

咳払いした。

全員が。

こっちを見る。

話題を。

変えよう。

俺は。

ドルチェを見る。

「それで。」

「俺たちを救った。」

「君のトランペットだけど。」

「はい?」

「前から。」

「少し気になってた。」

ドルチェの笑顔が。

ほんの少し。

静かになる。

「どうして。」

「フルートの音術師から。」

一拍。

「トランペットの音響士へ。」

「転科したんだ?」

「……。」

タケハラも。

リアルダも。

黙った。

コン・ブリオは。

グラスへ視線を落とす。

ドルチェは。

しばらく。

何も言わなかった。

やがて。

いつものように。

穏やかに微笑む。

「ウフフっ。」

「そうですわね。」

指先で。

グラスの縁を。

そっとなぞる。

「少し。」

「昔のお話を。」

「いたしましょうか。」


第117話『同じ目線』
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2026年08月18日