第116話『決死隊』
第116話『決死隊』
「彼女の第3遊撃隊は。」
コン・ブリオが。
静かに言った。
「決死隊だったからね……。」
沈黙。
さっきまでの。
笑い声が消えた。
俺は。
たまらず。
グラスへ手を伸ばす。
カラン。
氷の音だけが。
店内に響いた。
「あの、その……。」
タケハラが。
口を開く。
でも。
その先が続かない。
そんな彼女を。
かばうように。
ドルチェが口を開いた。
「タケハラさんだけでは。」
「ありませんわ。」
「わたくしたちの。」
「第4遊撃隊も。」
一拍。
「決死隊だったんですのよ。」
「え?」
「え?」
俺と。
リアルダの声が重なった。
◇
コン・ブリオが。
俺を見る。
「レッド。」
「防御の固い本陣まで。」
「届く音響弾が飛んできたら。」
「どうする?」
リアルダが。
先に答えた。
「火点を見つけ。」
「全力で叩きます。」
「あ……。」
思い出した。
オオタケの言葉。
そして。
あの瞬間。
「山ンバの左翼から。」
「ありったけの音響弾が。」
「飛んできたな……。」
リアルダの顔が。
少し青ざめる。
「あの轟音と。」
「衝撃……。」
膝の上で。
指を握った。
「とても。」
「恐ろしかったです。」
一拍。
「本当に。」
「生き残ったのが。」
「不思議なくらいです。」
ドルチェが。
いつものように。
穏やかに微笑む。
「たまたま。」
「第4遊撃隊には。」
「隊長をはじめ。」
「音術師たくさんがいらっしゃいましたし。」
少しだけ。
自分の胸へ手を添える。
「わたくしも。」
「おりましたから。」
◇
コン・ブリオが。
タケハラを見る。
「じゃあ。」
「タケハラ君の第3遊撃隊へ。」
「同じ集中砲火が来たら?」
「……。」
タケハラは。
グラスへ視線を落とした。
「我が隊では。」
一拍。
「防ぎきれなかったと。」
「思います……。」
誰も。
何も言わない。
「もし。」
俺は。
口を開いた。
「俺たちが。」
「広島へ来てなかったら……。」
そこで。
言葉が止まった。
その先は。
聞く必要がなかった。
◇
「……戦争は。」
コン・ブリオの声が。
静かに落ちる。
「綺麗ごとだけじゃ。」
「済まないからね。」
いつもの。
柔らかな声。
なのに。
どこか。
悲しみが混じっていた。
リアルダが。
ゆっくり顔を上げる。
「それで……。」
「第4遊撃隊には。」
俺を見る。
「音術師様が。」
「多く配置されていたのですね。」
コン・ブリオは。
何も答えなかった。
ドルチェが。
小さく笑う。
「ウフフっ。」
「そのおかげで。」
「今。」
「こうして。」
「皆さんと。」
「ご一緒できておりますわね。」
重かった空気が。
ほんの少しだけ。
ほどけた。
◇
「あの……。」
タケハラが。
リアルダを見る。
「リアルダさん。」
「はい。」
「すみませんでした。」
「私。」
少しだけ。
視線を落とす。
「ちょっと。」
「浮かれてました……。」
リアルダも。
姿勢を正した。
「こちらこそ。」
「申し訳ありませんでした。」
「事情も知らず。」
「失礼なことを。」
「いえ。」
「そんな……。」
短い。
沈黙。
タケハラが。
ゆっくり顔を上げる。
そして。
ニコッ。
「なら。」
一拍。
「公認ということですね♪」
「……。」
リアルダが。
固まる。
俺も。
一瞬。
言葉が出なかった。
強い。
この子。
強い。
さっきまで。
決死隊の話をしていたのに。
もう。
戻ってきた。
胆力が。
すごい。
「タケハラ様。」
リアルダの声が。
少し低くなる。
「はい♪」
「公認した覚えは。」
「ありません。」
「えー。」
「今。」
「和解したじゃないですかー。」
「和解と。」
「許可は。」
「別問題です。」
「厳しいー。」
また。
始まりそうだ。
◇
「コホン。」
俺は。
わざとらしく。
咳払いした。
全員が。
こっちを見る。
話題を。
変えよう。
俺は。
ドルチェを見る。
「それで。」
「俺たちを救った。」
「君のトランペットだけど。」
「はい?」
「前から。」
「少し気になってた。」
ドルチェの笑顔が。
ほんの少し。
静かになる。
「どうして。」
「フルートの音術師から。」
一拍。
「トランペットの音響士へ。」
「転科したんだ?」
「……。」
タケハラも。
リアルダも。
黙った。
コン・ブリオは。
グラスへ視線を落とす。
ドルチェは。
しばらく。
何も言わなかった。
やがて。
いつものように。
穏やかに微笑む。
「ウフフっ。」
「そうですわね。」
指先で。
グラスの縁を。
そっとなぞる。
「少し。」
「昔のお話を。」
「いたしましょうか。」
第117話『同じ目線』
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