第132話『ピピ?』

第132話『ピピ?』


「息子は……」

母親が、静かに口を開いた。

「立派に、お務めを果たしたでしょうか」

「はい」

俺は頷く。

「彼は左翼の防御の要で――」

少し、言葉を選ぶ。

「最後まで」

「隊員達を、かばい続けたそうです」

「……そうですか」

母親は静かに頷いた。

「息子も」

「覚悟をして働いてたと思います……」

「……」

覚悟。

その言葉が。

胸に引っかかった。

「スンマセン……」

「言葉が見つかりません」

母親は。

何も言わなかった。

◇

第一トランペット遊撃隊は。

しばらく活動停止となった。

俺は余暇を利用して。

戦線へ復帰できなくなった隊員達の家族を回った。

(覚悟か……)

何度も。

その言葉が頭へ戻ってくる。

俺にとっては。

重い言葉だった。

益田駐屯地の門をくぐる。

ベシッ!

「痛っ!」

「ワーッハッハ!」

振り返る。

ジョコーソが立っていた。

「どうした少年!」

「隊長が、そんなしみったれた顔をするな」

「……元からこういう顔です」

「うっ」

ジョコーソが固まった。

「それはスマン」

「……」

「ワーッハッハ!」

「笑って誤魔化すなよ……」

ジョコーソが俺の肩へ手を置く。

「我々、混成サックス遊撃隊が」

「しばらくカバーする」

「……迷惑をかけます」

ベシッ!

「痛っ!」

「そのための遊撃隊だ」

ジョコーソは。

豪快に笑った。

◇

宿舎へ戻る。

ガチャ。

「……」

ベッドに。

誰か寝ていた。

「……?」

若い女性?

「……」

バタン。

ドアを閉める。

部屋番号を見る。

「……」

周囲を見る。

もう一度。

部屋番号を見る。

(間違ってない……)

ガチャ。

もう一度。

ドアを開ける。

やっぱりいる。

しかも――。

「!?」

何も身につけていない。

その時。

「レッド様、お話が♪」

背後から。

リアルダの明るい声。

「ん?」

振り返るより先に。

リアルダが、俺の肩越しに部屋を覗いた。

「……」

「……」

笑顔が消える。

すっと。

顔から血の気が引いた。

次の瞬間。

両手が、俺の肩に置かれた。

「レッド様」

「はい」

「お話が……」

声が。

低い。

「……はい」

◇

俺はなぜか。

自室で正座をしていた。

「……」

やましいことは。

これっぽっちもない。

本当に。

ない。

しかし。

なぜか。

そうせざるを得なかった。

腕を組んだグラヴィオーソが。

しかめっ面で、こちらを見ている。

「……」

「いや」

「だから俺は――」

ドタドタドタ――!

廊下を走る音。

ガチャ!

「レッド様、分かりました!」

リアルダが飛び込んできた。

「彼女は記憶を失っています」

「迷子や行方不明者の情報にもありません」

一息。

「もちろん」

「レッド様の潔白も証明されました」

「よし」

グラヴィオーソが呟く。

「……それは」

「何も分からないのと同じ」

「いや、分かっただろ!」

後ろから。

ソステヌートが顔を出した。

眼鏡を、片手で上げる。

「正確には」

「身元」

「侵入経路」

「記憶喪失の原因」

「いずれも不明です」

「……」

「当面の間」

「こちらで保護することになりそうです」

「……そうか」

その後ろから。

問題の女性が。

ひょこっと顔を覗かせた。

用意された服を着ている。

「……」

隊員達の間をすり抜け。

俺の前まで来る。

「?」

俺の顔を。

じっと見る。

首を傾げた。

「ピピ?」

「……何?」

「ピピピ!?」

急に。

目を輝かせた。

「レッド」

「え?」

「レッド」

「レッド、レッド」

「レッド、レッド、レッド!」

「え!?」


第133話『チャッピー』
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2026年08月29日