第81話『帰路』
第81話『帰路』
夕暮れの日本海は、昼間とは違う表情を見せていた。
茜色に染まる波が、静かに岸へ寄せては返す。
俺たちは沿岸方面軍の隊員たちと向かい合った。
ハマダ軍曹が一歩前へ出る。
「皆さま。」
「本日は、本当にありがとうございました。」
深く頭を下げる。
「実りのある合同訓練になりました。」
俺も敬礼を返す。
「こちらこそ。」
「海でしか学べないことを、たくさん教えていただきました。」
ハマダ軍曹は照れくさそうに笑った。
「また、いつでもお越しください。」
「歓迎します。」
固い握手を交わす。
短い握手だった。
だが、その手には互いへの信頼が込められていた。
◇
荷物を積み終えた頃。
カンタービレ軍曹が静かに口を開いた。
「沿岸方面の皆さんがいなければ。」
海を見つめる。
「もっと早くに追い詰められていましたわ。」
ハマダ軍曹は少し驚いたように目を丸くした。
「そのお言葉だけで十分です。」
「ありがとうございます。」
二人は小さく敬礼を交わした。
その姿を見て、俺は自然と笑みがこぼれた。
◇
車が静かに走り出す。
窓の外では、日本海がゆっくり遠ざかっていく。
後部座席では、遊び疲れた隊員たちが静かだった。
浮き輪を抱えたまま眠るスタッカート。
貝殻を大事そうに見つめるドルチェ。
ブリランテは窓へ額を預け、小さく鼻歌を歌っている。
リアルダは膝の上へノートを広げていた。
件名。
『海岸合同訓練及び神獣介入報告』
思わず笑ってしまう。
「また、変わった報告書になりそうだな。」
リアルダも小さく笑った。
「はい。」
「でも、書きがいがあります。」
ペンが静かに走る。
その音だけが車内へ響いていた。
◇
しばらく山道を走る。
バックミラーを見ると、カプリッチョが満足そうに尻尾を揺らしていた。
俺は何となく尋ねる。
「名代様。」
「もし今日、ピンチだったのが悪のみなさんだったら、どうしてた?」
カプリッチョはきょとんとした顔になる。
「簡単だコン。」
胸を張る。
「みんなで仲良く海水浴してたコン♪」
一瞬だけ車内が静まり返る。
そして。
「あはははは!」
笑い声が一斉に広がった。
リアルダも。
カンタービレ軍曹も。
アクセントも。
ハンドルを握る俺まで笑っていた。
◇
車は山道を登っていく。
バックミラーの向こうで、日本海が少しずつ小さくなっていった。
今日も。
誰一人欠けることなく帰ることができた。
それで十分だった。
「……何とかなるさ。」
そうつぶやくと、夕焼け色の空が静かにフロントガラスいっぱいへ広がっていった。
― 沿岸訓練編・完 ―
第82話『山口からの要請』
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