第81話『帰路』

第81話『帰路』


夕暮れの日本海は、昼間とは違う表情を見せていた。

茜色に染まる波が、静かに岸へ寄せては返す。

俺たちは沿岸方面軍の隊員たちと向かい合った。

ハマダ軍曹が一歩前へ出る。

「皆さま。」

「本日は、本当にありがとうございました。」

深く頭を下げる。

「実りのある合同訓練になりました。」

俺も敬礼を返す。

「こちらこそ。」

「海でしか学べないことを、たくさん教えていただきました。」

ハマダ軍曹は照れくさそうに笑った。

「また、いつでもお越しください。」

「歓迎します。」

固い握手を交わす。

短い握手だった。

だが、その手には互いへの信頼が込められていた。



荷物を積み終えた頃。

カンタービレ軍曹が静かに口を開いた。

「沿岸方面の皆さんがいなければ。」

海を見つめる。

「もっと早くに追い詰められていましたわ。」

ハマダ軍曹は少し驚いたように目を丸くした。

「そのお言葉だけで十分です。」

「ありがとうございます。」

二人は小さく敬礼を交わした。

その姿を見て、俺は自然と笑みがこぼれた。



車が静かに走り出す。

窓の外では、日本海がゆっくり遠ざかっていく。

後部座席では、遊び疲れた隊員たちが静かだった。

浮き輪を抱えたまま眠るスタッカート。

貝殻を大事そうに見つめるドルチェ。

ブリランテは窓へ額を預け、小さく鼻歌を歌っている。

リアルダは膝の上へノートを広げていた。

件名。

『海岸合同訓練及び神獣介入報告』

思わず笑ってしまう。

「また、変わった報告書になりそうだな。」

リアルダも小さく笑った。

「はい。」

「でも、書きがいがあります。」

ペンが静かに走る。

その音だけが車内へ響いていた。



しばらく山道を走る。

バックミラーを見ると、カプリッチョが満足そうに尻尾を揺らしていた。

俺は何となく尋ねる。

「名代様。」

「もし今日、ピンチだったのが悪のみなさんだったら、どうしてた?」

カプリッチョはきょとんとした顔になる。

「簡単だコン。」

胸を張る。

「みんなで仲良く海水浴してたコン♪」

一瞬だけ車内が静まり返る。

そして。

「あはははは!」

笑い声が一斉に広がった。

リアルダも。

カンタービレ軍曹も。

アクセントも。

ハンドルを握る俺まで笑っていた。



車は山道を登っていく。

バックミラーの向こうで、日本海が少しずつ小さくなっていった。

今日も。

誰一人欠けることなく帰ることができた。

それで十分だった。

「……何とかなるさ。」

そうつぶやくと、夕焼け色の空が静かにフロントガラスいっぱいへ広がっていった。

― 沿岸訓練編・完 ―


第82話『山口からの要請』
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2026年07月14日