第74話『名代の教え』

第74話『名代の教え』


潮風が、砂浜をゆっくり吹き抜ける。

「カプちゃーん!」

「待つコン!」

カプリッチョが子どもたちと一緒に駆け回る。

笑い声が、波音に溶けていった。

「隊長様。」

ブリランテがその様子を見つめる。

「名代様、子どもたちに大人気ですね。」

「ああ。」

ハマダ軍曹も目を細めた。

「浜田へ来られると、いつもああして遊んでくださるんです。」

「子どもたちも、名代様が大好きでして。」

その時だった。

一人の男の子が、カプリッチョを見上げた。

「ねぇ、カプちゃん。」

「悪のみなさんって悪い人たちなんだよ!」

「だからウルセンジャーがやっつけるんだ!」

カプリッチョは首をかしげる。

「悪のみなさんコン?」

少し考える。

そして、小さく首を振った。

「みんな、お仕事してるコン。」

子どもたちは顔を見合わせた。

「でも、悪いことするよ?」

「ウルセンジャーと戦うよ?」

カプリッチョは空を見上げる。

青い空を、一羽のカモメが横切っていった。

「そういうお仕事コン。」

静かな声だった。

子どもたちは、まだ不思議そうな顔をしている。

カプリッチョはゆっくりと姿勢を正した。

さっきまでの無邪気な笑顔が消える。

名代の顔だった。

「これは津和野大明神様のお言葉だコン。」

潮風が止んだような気がした。

「子どもたちの笑顔を曇らせる者は戒めよ。」

短い言葉だった。

それだけを残して、カプリッチョは大きく伸びをする。

「よし!」

いつもの笑顔に戻った。

「鬼ごっこの続きコン!」

「やったー!」

子どもたちが一斉に駆け出す。

「カプちゃーん!」

「待つコン!」

笑い声が砂浜いっぱいに広がった。

俺はその光景を眺めながら、小さく息をつく。

善も悪も。

名代様には、関係ないのかもしれない。

守っているのは、子どもたちの笑顔。

ただ、それだけなのだろう。

波は穏やかに浜辺へ寄せていた。

その沖合で、誰にも気づかれないほど小さく、不協和音が揺れた。


第75話『濡れ女』
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2026年07月14日